値下げを見越して、日本通信は「合理的かけほプラン」を20年7月から展開しているが、経営に打撃を与える可能性がある。
ことの発端は、19年11月にさかのぼる。
日本通信はドコモに対し、音声通話の卸料金を値下げするよう、交渉を持ちかけていた。これに対し、ドコモが応じなかっため、19年11月に電気通信事業法に基づいた裁定を申請した。その結果、20年6月には総務大臣裁定が確定。ドコモに対し、音声卸料金の見直しが求められた。
音声卸料金は、裁定日にさかのぼって清算されるため、値下がりすることを見越した日本通信は、7月に合理的かけほプランを投入している。
大手キャリアから設備を借りるMVNOだが、データ通信と音声通話では、その借り方が異なる。データ通信はMVNO側が設備を持ち、10Mbpsあたりでいくらといった形で帯域を借りるのに対し、音声通話は大手キャリアの設備をそのまま利用する。ユーザーに請求するのと同様の形で、30秒あたりの料金が定められているため、MVNO側が工夫できる余地は少ない。
ドコモの場合、音声通話の料金は30秒20円に設定。2001回線以上借りる際には、30%の割引を受けられる。どのMVNOにも一律で、30秒14円の料金がかかっていたといるというわけだ。MVNO各社の音声通話料金がおおむね、30秒20円に設定されているのもそのため。定額プランなどは用意されていないため、MVNOからユーザーに対して提供する際にも、従量課金せざるをえなくなる。
日本通信は、これに異議を唱えた格好だ。同社は、ドコモに対し、音声通話卸料金の値下げか、定額プランの提供を求めたが、前者の主張が総務大臣裁定で認められた。合理的かけほプランには音声通話定額が含まれているが、これは卸価格の値下げを見越してのもの。単価が十分下がれば、定額で提供しても足が出ないというわけだ。
ただし、総務大臣が具体的な金額を指示したわけではく、代替案も認められていた。日本通信とドコモの交渉がまとまらなかったのはそのためで、両社の主張は裁定後も平行線をたどっていた。日本通信は、ドコモに対し、原価に適正利潤を乗せた金額に改めるよう主張。一方のドコモは、総務大臣裁定で認められている代替案での実現にこだわっていた。
代替案とは、いわゆる中継電話サービスを交換機側で実現することだ。現状、多くのMVNOは通話料が高額になるのを防ぐため、大手キャリアの設備を迂回して、通話料を安価に抑えるサービスを導入している。例えば、IIJの「みおふぉんダイヤル」や、mineoの「mineoでんわ」などがそれにあたる。
中継電話サービスは電話発信時にプレフィックスと呼ばれる番号を頭につけなければならず、ユーザー側に操作の手間がかかる。各社とも、アプリで自動的にプレフィックスを付加できるようにしているものの、スマホに標準搭載された電話アプリで間違って発信すると、30秒20円の料金がかかってしまう。こうした手間を軽減するよう、ドコモはネットワーク設備側でMVNOごとのプレフィックスを付加する機能を開発。現・取締役(当時は代表取締役社長)の吉澤和弘氏は、こちらの利用を原則にしていく方針を明かしていた。
日本通信はすでに音声定額を含んだ料金プランを提供しているため、交渉が長期化したり、ドコモの主張が全面的に認められたりすれば、経営に与えるダメージが大きくなるおそれがある。見切り発車で提供した料金プランが裏目に出た格好だが、どちらかが譲歩しなければ戦いは泥沼化しそうだ。