3月には、ドコモ、au、ソフトバンクの3社が5Gサービスを開始。コロナ禍の影響を受け、当初5月予定だった楽天モバイルはサービス開始を延期し、9月に5Gを導入した。当初のサービスは、4Gを併用するNSA(ノンスタンドアローン)方式が採用され、エリア内では1Gbpsを超えることもある超高速通信を利用できる。
一方で、サービス開始当初は、加入者数が伸び悩んでいたことも事実だ。理由は複数ある。1つ目はエリアが非常に限定的だったこと。東京都内でも、数カ所といったレベルで、面でのカバーはまだできていない。端末も、サービス開始当初はAndroidのみで、しかもハイエンドモデルが中心だった。これが2つ目の理由だ。いずれも価格は10万円を超えており、総務省による割引の制限がある中、普及が立ち遅れていた。事実上、料金が値上げになってしまうことも、普及のハードルになっていた格好だ。
これに対し、大手3社はエリアを拡大する方針を示す。KDDIやソフトバンクは、4Gの周波数の一部を5Gに転用することで、ペースを上げる。2022年3月には、2社とも人口カバー率90%を達成する予定だ。鍵となるのが、DSS(ダイナミック・スペクトラム・シェアリング)と呼ばれる技術。DSSを使うと、同じ周波数帯で4Gと5Gが共存可能になり、2つの方式に割り当てる周波数も自動的に決まる。ソフトウェアアップデートで適用可能なため、エリア展開をスムーズに行える。
対するドコモは、「瞬速5G」と銘打ち、5G用に割り当てられた周波数で、エリアを拡大していく。ドコモの武器になるのが、4.5GHz帯の周波数。3社共通で持つ3.7GHz帯とは異なり、衛星との干渉が少ないため、出力を上げた基地局でエリアを一気に広げやすいのがメリットだ。ただし、KDDIやソフトバンクの使う既存周波数帯より周波数が高いため、広がり方はやや後れを取る。逆に、専用周波数でエリアを広げていくため、5Gにつながったときの速度が高くなるというわけだ。
当初はハイエンドモデル中心だった端末も、徐々にミドルレンジモデルのラインナップが広がり始めている。例えば、ドコモは冬春モデルとして、ミドルレンジモデル向けのSnapdragon 765GやSnapdragon 690を搭載した「スタンダードモデル」を一気に4機種拡充。SIMフリースマホでは、TCLの「TCL 10 5G」のように、4万円を下回る価格をつける端末も登場し、買い替えの負担感は下がりつつある。
日本でシェアの高いiPhoneシリーズが5Gに対応したのも、普及に対してプラスに働いている。iPhone 12シリーズは、もっともコンパクトなiPhone 12 miniも含む、全4機種が5Gをサポート。デザインも含めてフルモデルチェンジを図ったこともあり、売れ行きは上々だ。iPhone 12 miniは、価格もiPhone 11の発売時と同じで、iPhoneとしては値ごろ感もある。
エリアの拡大に合わせて端末が出そろったことを機に、各社とも5Gの契約者数は急増している。ドコモは年度末までに250万契約を目標に掲げているが、iPhoneや秋冬モデルの登場で「計画の上をいっている」(代表取締役社長 吉澤和弘氏=肩書は当時)と、伸びが急増。KDDIも「年度末に200万を目標にしているが、順調にきいている」(代表取締役執行役員副社長 東海林崇氏)という。
ただ、5Gに契約を切り替えると、通信料が上がってしまうのは課題だった。ドコモは500円、KDDIやソフトバンクは1000円、4Gより5Gの料金が高く設定されている。これに対し、ドコモはオンラインでの手続きを基本にした「ahamo」を発表。月20GBで2980円という価格を打ち出し、大きな話題を呼んだ。ahamoは4Gと5Gのどちらも利用でき、料金の割高感を払拭できそうだ。加えてドコモは、「5Gギガホ」を4月から「5Gギガホ プレミア」に改定。4Gとの価格差を100円まで縮めたうえに、容量無制限を打ち出し、普及を加速させていく方針だ。
2020年は、政府主導の料金値下げが本格化した1年でもあった。4月に楽天モバイルが本格参入した際には、使い放題で2980円の料金を打ち出した。ここに、KDDIのサブブランドであるUQ mobileが対抗し、10GBで2980円の「スマホプランR」を投入した。一方で、値下げの動きが本格化し始めたのは、菅義偉新政権が発足した9月以降のこと。菅氏は、主要政策の1つに携帯電話料金の値下げを掲げ、その意向を受けた総務省は、各社に値下げを迫った。
9月には、NTTによるドコモの完全子会社化を発表。NTTと一体化することで、体力的な余裕が生まれ、先に挙げたahamoや5Gギガホ プレミアといった直接的な値下げにつながっている。10月には、総務省が競争促進のための「アクション・プラン」を公表。その一環として、番号ポータビリティの手数料撤廃や、メインブランド、サブブランド間の手数料撤廃などを求められ、各社ともそれに従う方針を示した。ドコモのahamoや5Gギガホ プレミアには、他社も対抗策を講じていると見られており、2021年は、年明け早々から各社の新料金が注目を集めることになりそうだ。
(文・石野純也)