料金は20GBで2980円。5分間の通話定額もここに付属する。申し込みはオンライン限定になるが、既存の料金プランである「ギガホ」や「ギガライト」と比較すると、“激安”と水準になる。新プラン導入の背景には、政府の要請とドコモ自身の危機感があった。
新料金プラン「ahamo」導入の本当の理由……?
20GBの料金プランは、政府が各社に導入を促していた。諸外国と比較した際に、中容量の20GBプランが割高になっていたからだ。それに伴い、KDDIはUQ mobileに20GBの「スマホプランV」を新設、ソフトバンクはワイモバイルで「シンプル20」を開始する。ドコモのahamoも、これらの料金プランに対抗するものだ。一方で、政府の要請だけがドコモを動かしたわけではないという。ドコモの社長に就任した井伊基之氏は、「20GBの中容量については、若い世代、特に20代の世代がターゲットになるが、当社はこの層のお客様に大変弱かった」と語る。家族層や高齢層は取り込めていたドコモだが、若いユーザーは他社のサブブランドに押されていたのが事実。政府の要請を踏まえつつも、自社の弱点をカバーするようなプランを導入したというわけだ。
ターゲットにしているのは、20代のデジタルネイティブ世代。コストダウンする必要もあり、申し込みや各種手続き、サポートなどは、原則としてWebやアプリで行う仕組みにした。通常の料金プランとは異なり、ドコモショップや家電量販店は利用しないことで、手数料などを削減できる。オンライン特化は、コストダウンのためにも必要な措置だったと言えそうだ。
ahamoの登場に、戦々恐々としている業界関係者は多い。先に挙げたUQ mobileのスマホプランVも、ワイモバイルのシンプル20も、ahamoより金額が割高に設定されているからだ。2ブランドとも、ショップで手続きができる手軽さはある一方で、単純な金額比較ではドコモのahamoにリードを許している。
4月に本格参入した楽天モバイルも、同じだ。ahamoの2980円は、楽天モバイルの「UN-LIMIT V」と同じ。4Gと5Gの両方が使えるところや、国際ローミングまで無料にしているところなど、楽天モバイルをターゲットにしている節もある。UN-LIMIT Vはデータ容量が無制限ながら、新規参入で基地局をゼロから設置しているがゆえに、エリアではドコモに大きく見劣りする。ドコモは、これなら20GBでも十分対抗可能と踏んだ可能性が高い。
ただし、既存のドコモユーザーがahamoに殺到してしまうと、自社の収益性を落としかねない諸刃の剣だ。ギガライトで上限に達していたり、ギガホで容量を大きく余らせていたりするユーザーの目には、ahamoの料金体系が魅力的に映るはずだ。これに対し、ドコモは既存の料金プランを「プレミア」に位置づけ、価格を改定する見込みだ。新料金は、12月中に発表されるという。
ahamoの不安
一方でahamoは“新料金”と銘打っているが、実態を見ていくと、単なる料金プランではなく、他社のサブブランドに位置づけは近い。既存のドコモ契約者が料金プランを変更しようとすると、開始当初は番号ポータビリティ扱いになってしまうほか、ファミリー割引のグループから外れてしまったり、ドコモ光とのセット割がなかったりといったデメリットもある。さらに、端末もドコモ端末とは別に、ahamo端末をラインナップする予定だ。どのような機種が取りそろえられるかにもよるが、「ある程度安価な機種でなければ駄目と考えている」(井伊氏)というため、ミドルレンジモデルが中心になる可能性が高い。「人気のある機種が使えないと駄目、とも考えている」というものの、日本で圧倒的なシェアを誇るiPhoneの取り扱いについては明言されなかった。
もちろん、ahamoはあくまで通信サービスのため、SIMフリーでiPhoneを購入して、SIMカードを挿して使うことはできるはずだ。とは言え、日本では、iPhoneと言えどもキャリアを介して端末を購入するのが一般的。特にドコモは補償サービスが手厚く、SIMフリーにはないアップグレードプログラムの「スマホおかえしプログラム」もあり、お得に端末を購入できる。
こうした点が、ahamoへの移行の歯止めになる可能性は十分考えられる。逆の見方をすると、ahamoは既存のドコモユーザーが抱える“しがらみ”のない人向けの料金プランだ。既存プランからの変更がまったくないわけではないが、どちらかと言えば、番号ポータビリティで他社のサブブランドやMVNOから移ってくるユーザーを期待したプランだと評価できそうだ。
(文・石野純也)