TeleAnglerのすごさは、「引き」を再現しているという点。この技術こそが「リアルハプティクス技術」なのだが、具体的にどのような技術なのだろうか——。
開発をリードした、代表取締役の新明(しんみょう)氏に話を聞いた。
「リアルハプティクス技術」の面白さ
ーーまず最初に、「リアルハプティクス技術」について簡単に教えていただいてもいいですか?新明:わかりました。「リアルハプティクス技術」というのは簡単に言うと、触覚を伝える技術のことです。正確には、力の触覚と書き、力触覚(りきしょっかく)と言います。
インターネットが普及したことで、視覚(画像・動画)や聴覚(音声)といった感覚は当たり前のように伝送されるようになりましたが、触覚については非常に重要な感覚機能であるにも関わらず、長い間伝送できなかったという歴史があるんです。
そういう試み自体は昔からあって、研究は1940年くらいから開始されています。しかし、感触の有無を伝えることはできても、その物体が硬いのか柔らかいのかといった鋭敏な触覚までは伝えることができてなかったんですよね。
そんななか、2011年に世界で初めて触覚伝送技術を発明したのが、慶應義塾大学の大西公平教授です。
ーー約70年もの間、実現できなかったというのも驚きですが……この技術は今から10年も前に発明されていたんですね。
新明:そうなんです! 触覚の伝送技術といっても、そもそも概念がわかりにくいですし、目に見えるものでもないので、全然認知されていないんです。
自分は学生時代、そして卒業後も大西先生のもとで研究を行っていたんですが、次第に「どうすればリアルハプティクス技術を広められるか」ということについて考えるようになりました。
もちろん大学側でも医療をはじめとした様々な分野に対して応用を進めていましたが、自分はもっとこの技術の「面白さ」を広く伝えるようなことがしたいな、と。
ーーなるほど、それで開発したのがフィッシングロボットなんですね。なぜ「釣り」をテーマにしたんですか?
新明:自分は田舎出身でして、釣りにどっぷりハマっていた時期があるんですよね。バス釣りとかめちゃくちゃやってて。
「遠隔で何かできるとしたら何がしたいか」って考えたときにふと思い出したんです、多分(笑)。
あとは釣りって、竿のしなりとか、糸の引きとか、魚が動くときの振動とか……触覚が楽しさの大部分を占める遊びなので、リアルハプティクス技術の凄さを存分に発揮できるなと思ったからでもあります。
開発を続ける本当の理由
ーーフィッシングロボットの開発において、最も苦労したのはどのような点ですか?新明:やっぱり「超低遅延」の部分ですかね。触覚って本当に繊細な感覚なので、少し遅れるだけでものすごい違和感があるんです。
去年、千葉の幕張メッセで開催されたCEATEC2019で、1,000km離れた大分県の海上釣り堀で魚を釣るというデモンストレーションを行ったんですけど、そのときも「低遅延」の実現にかなり苦労しましたね。最初はインターネットも通ってなかったんで、海底ケーブルを通すところから始めたんです(笑)。
このプロダクトを普及させていくためには、一般的な回線で超低遅延を実現させる必要があるので、まだまだ開発を続けています。
ーーいまは「遠隔フィッシング」だけではなく、「仮想フィッシング」の開発も進めているとのことですが……これは何なんですか?
新明:リアルハプティクス技術には、触覚を「伝送」するだけではなく、「保存」することもできるという特徴があるんですが、これを応用させたのが仮想フィッシングです。
実際の魚釣りで感じられる触覚を、遠隔地に伝えるだけではなく、保存してデータ化し、仮想の魚に覚えさせます。仮想空間においてそれを再現することで、バーチャル世界で本物の「魚の引き」を感じることができるというわけです。
つまり、24時間365日どこでも釣りをすることができるようになるんですよ!
ーーゲームっぽいけど、本物の「引き」が楽しめるということですね。
新明: ヘッドマウントを着けて「TeleAngler」を握れば本物さながらの釣りができるって、考えただけでもワクワクするんですよね。
実は私、大学卒業して一度電機メーカーに就職してるんです。でもやっぱりロボット開発がやりたいと思って古巣の大学に戻ってきたという経緯がありまして……。
開発には大変なことももちろん多いんですが、なんというか、ワクワクすることを追求してたらこんなものができた、という感じなんですよね(笑)。
冒頭、"他の人に”この技術の面白さを伝えたいと言いましたけど、本当は"自分が”面白いことをやりたいだけなのかもしれません。
(文・栄藤徹平)
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