wenaシリーズ最新作となる同プロダクトでは、タッチディスプレイを含むすべての機能をバックル部分に集約。さらに、Suica・Amazon Alexaへの対応など、機能面でも大きなバージョンアップを遂げている。
そんな「wena 3」開発の裏側には、どのような困難があり、どのようなこだわりがあったのかーー。事業責任者の對馬(つしま)氏を含む開発チームの4名に話を伺い「開発者の矜持」について取材した。
開発背景にある「腕時計へのこだわり」
ーーまずは開発の背景からうかがえますか?對馬(事業責任者):少しさかのぼりますが、そもそもwena開発の背景には自分自身の腕時計に対する思いというか、課題感が根底にあります。
私は学生時代、右腕にアナログの腕時計、左腕にスマートウォッチを着けて生活していたんですが、これはなぜかというと、腕時計の美しさとスマートウォッチの機能性の両方を享受したかったからなんですよね。
装飾品としての身に付ける喜びと、スマートデバイスとしての便利さを1台で両立できれば。そういう思いで立ち上げたのがwenaプロジェクトなんです。
2015年に発表した初代「wena wrist」のプロジェクトは、クラウドファンディングから始まったのですが、日本のクラウドファンディングとしては最高額となる1億円以上の支援金額を達成しました。自分と同じようなニーズを持つ人が多くいることを確認できたんです。
とはいえ、この段階ではまだ自分のなかにある理想のスマートウォッチ像とはギャップがありました。
そこで約2年間の開発期間を経て、デザインも機能性も、より理想に近づけたのが第2世代モデルの「wena wrist pro」と「wena wrist active」です。
ーー第2世代モデル発表の際には、對馬さんから「完成型だ」というコメントもありましたよね。
對馬:はい、自分が持つ理想に限りなく近づけたので、ある意味「完成型」だと感じていました。にもかかわらず今回第3世代モデルを出すことができたのは、抜本的に構造を変える提案が開発メンバーからあったからです。
たとえば、第2世代モデルではバンドの各コマに各種部品を分散して格納させているんですが、「wena 3」ではバックル部分に集約させています。もともとそんなことができるなんて考えていませんでしたが、それが可能なら「腕時計の美しさ」を表現できる領域が広がるな、と。自分の理想を再認識できた気がしています。
また、第1世代、第2世代モデルはあくまで「ハイブリッド型スマートウォッチ」としての位置づけだったので、他のスマートウォッチと比較したときに機能面で劣っている部分もありました。
「wena 3」は、「腕時計の美しさ」を最大化することを前提に、「スマートウォッチの機能性」も妥協せず追求した製品なんです。
「wena 3」開発の困難と譲れないこと
ーー開発において苦労した点もあったかと思いますが、いかがでしょうか?友藤(設計プロジェクトリーダー/ 無線回路・アンテナ設計):今回のモデルでは新機能が数多くあるので、苦労したと言えばすべて苦労しましたが……なかでも小型化に関してはかなり時間をかけて議論しましたね。
さきほど對馬からも話があった通り、従来のwenaはバンド内部に電子部品を分散配置していたんですが、それだと「アナログ腕時計としての美しさ」を表現する部分が盤面部分に限られてしまいます。
「wena 3」ではこれをバックル部分に集約することで、バンド部分にもデザイン領域を拡大することに成功しました。
もちろん、それによって機能性が低くなってしまってはいけないので、基板サイズが従来モデルの半分以下になる構造を実現すべく、部品間のクリアランスなど設計をイチから見直しました。
對馬:そういう意味でも、「wena 3」はこれまでのwenaシリーズの延長線ではない製品なんですよね。体積を最小化したうえでどこまでの機能を入れられるか、という点はかなり議論しました。
鎌田(wenaのSuica開発責任者):それで言うと新機能としての「QRコード決済」搭載も悩みましたよね。
今回のモデルでは「モバイル決済」もひとつのテーマだったんですが、「wena 3」のコンセプトを話し合う段階で、当初広まり始めていた「QRコード決済」を載せるのはどうかという提案があったんです。
でもあれって読み取りも必要なんですよね。要は小型カメラを搭載する必要があるんです。あとは、小さいディスプレイでの表示にも不安が残りました。最後の最後まで検討しましたが、これは断念しようということになったんです。
ーーただ機能が増えればいいというわけではないですもんね。
對馬:そうなんですよね。小さいディスプレイで電卓が使えても仕方がないわけで。
「Alexa!」っていう最初の呼びかけが不要になったり、鍵を持ち歩かなくてもよくなったり、改札を通るときにスマホを取り出さなくてもよくなったり。「小さなワンアクション」をなくすことで、日常がより便利になるような機能を追求しています。
ーーなるほど。デザインのこだわりについてはいかがですか?
青野(デザイン・メカ設計担当):ディスプレイの色味や透過率はなかなか最終形に行き着きませんでした。コロナの影響もあって、海外の工場とのやりとりもダイレクトにはできないというのもありましたし、調整に苦労しましたね。
実はフルカラーにしようという案もあったんですが、結果的にはグレースケールに落ち着きました。「wena 3」ではディスプレイを曲げてあるんですが、これに加えてフルカラーにするとなるとコスト的になかなか難しかったんですよね。
對馬:コンセプトを考えたときに、あまり目立たないグレースケールのほうがいいだろうという考えもありました。機能性の部分の存在感はあんまり出したくなかったんです。
こだわりと全体最適のバランス
ーー開発の過程で数多くの議論があったと思うのですが、その際に大事にしていることなどはありますか?對馬:組織をつくってものづくりをするときって、基本的にはいくつかのチームに分かれて開発を進めていくんですね。例えば、あなたは無線回路の担当、あなたは電気回路の担当……というように。
そういう場合によく起こるのが、「自分の担当した領域は完璧なのであとはよろしく」みたいな個別最適の考え方なんです。自分のところだけ結果を出せばいいという考え方は、ときに最終製品の品質を悪くすることもあると思っています。
wenaのチームでは、いかに良い最終製品をつくりあげるか、というのをチーム全員が意識しています。そのため、自分の担当しているところの完成度をあえて落として全体最適を意識しなければいけないこともあります。
ーー個別最適ではなく全体最適を、ということですね。
對馬:はい。一方で、決断においては、その事柄について誰よりも考えて誰よりも強いこだわりを持っている人の意見を尊重したいとも思っています。
全体最適だけを考えるわけでもなく、こだわりを突き通すだけでもいけない。そのバランスを取るのも自分の役割なのかなと考えています。
(文・栄藤徹平)