海外・国内のベンチャー系ニュースサイト | TECHABLE

TECHABLE

Mobile NTTドコモを完全子会社化するNTTの戦略

Mobile

NTTドコモを完全子会社化するNTTの戦略

SHARE ON

このエントリーをはてなブックマークに追加

ドコモの完全子会社化を決めたNTT。左がNTTの澤田社長、右がドコモの吉澤社長

NTTが、12月にNTTドコモを完全子会社化することを決定した。

現時点でも、ドコモは持株会社であるNTTの子会社だが、NTTの持ち分は約66%。残りの34%程度は少数株主を含む一般株主が所有している。この3割強の株式を、NTTはTOB(株式公開買い付け)で取得する予定だ。TOBには4割近いプレミアムが加えられており、総額で4.2兆円の大型買い付けになる見込みだ。

ドコモの完全子会社化を決めたNTT。左がNTTの澤田社長、右がドコモの吉澤社長

完全子会社化の狙い

元々、ドコモはNTTグループの1社で、グループ全体の約4割を稼ぎ出す主力企業だ。約66%とは言え、NTTの子会社であることに変わりはない。なぜあえて、4兆円を上回る巨額の資金を投じてまでドコモを完全子会社化するのか。NTTの狙いは、意思決定の迅速化やグループ全体でのシナジー強化にあるという。

意思決定の迅速化やグループ連携の強化が不可欠だと語る澤田氏

まず、1つ目の意思決定については、NTTとドコモの間での調整が減らせるようになる。子会社と言えども、一般株主が入っていると、そこへの配慮が必要になるからだ。「上場会社同士の議論だと、お互いにステークホルダーが違う。少数株主の権利や利益を考慮すると、議論が増えて時間がかかってしまう」(NTT 代表取締役社長 澤田純氏)というわけだ。

ドコモも「分社化してから経営の独立を守ってきたが、どうしてもある部分でNTTグループと少数株主の利益相反がなかったと言えばあった」(NTTドコモ 代表取締役社長 吉澤和弘氏)と口をそろえる。例えば、NTTが料金値下げでユーザーの基盤を拡大しようと思っても、ドコモやその株主にとっては直接的な減収に直結してしまうため、決断を下しづらい。一般株主が入っていることで、NTTの意向を直接反映しづらい体制になっていたと言えるだろう。

2点目のメリットはグループシナジーの強化にある。ドコモはユーザー数でシェア1位の携帯電話事業者だが、その多くが一般のコンシューマー。NTTコミュニケーションズやNTTデータといった、他のグループ企業と比べ、法人分野には相対的に弱い。一方で、NTTグループは全体的にコンシューマー分野に弱く、相互に補完関係があると言える。

ドコモは完全子会社化によって、サービス創出力・提供力を強化していくという

単にドコモを完全子会社化しただけではシナジーが発揮しづらいが、NTTがその先に見据えているのは、グループの再編だ。

澤田氏は「これからの議論」と前置きしつつも、NTTコミュニケーションズやNTTコムウェアといったグループ各社は「ドコモグループに移管することも考えている」という。ドコモが「NTTグループの中核を担い、すべてのフロントとしてトータルサービスで(ニーズに)こたえる」(吉澤氏)会社に生まれ変わるというわけだ。

背景には、国内でも3月にスタートした5Gがある。5Gは、異業種の企業ニーズにこたえるため、高速・大容量のほか、低遅延や超多端末接続に加え、高信頼性のネットワークスペックを備える。通信事業者が直接ユーザーにサービスを提供するだけでなく、B2BやB2B2Cといった形で、ケースによっては“黒子”に回ることも想定されている。こうした形態でサービスを提供するうえでは、コンシューマーに強いドコモが単体で動くより、グループ同士が連携したほうが効率的だ。

法人事業の強化が、ドコモにとっては急務だった

競合他社に目を移すと、KDDIやソフトバンクは固定通信とモバイルを一体的に提供しており、後者しかないドコモをリードしている部分がある。「固定と通信を融合させたサービスはドコモがあまりできておらず、競合はできている。競争上、ドコモだけがビハインドな状態に置かれている」(澤田氏)。完全子会社化を急いだ背景には、こうした状況に対するNTTの危機感があった。

結果として、菅義偉総理大臣が主要政策に掲げている料金値下げを実現できる可能性も強まってきた。澤田氏は「これをやることでドコモは強くなり、その結果として財務基盤が整い、値下げの余力が出てくる」と語る。「お客様の要望の1つとして値下げについて検討していこうと考えている」(同)として、料金値下げには前向きだ。

値下げの形の1つとして、ドコモのサブブランドを展開する可能性も出てきた。完全子会社化後にドコモの社長に就任する井伊基之氏は、サブブランド戦略について問われた際に、「あらゆる年代のお客様から支持される価格とサービスを実現するには、どういった戦略で目的を達成できるのかをよく考慮しなければいけない」と語る。これまでのドコモは、KDDIやソフトバンクのようなサブブランドに対して否定的な立場を取っていたが、新社長の下で、この方針を転換することになるのかもしれない。

完全子会社化に伴い、ドコモの社長は吉沢氏から井伊氏(右)に交代となる

奇しくも、ドコモに統合する計画のあるNTTコミュニケーションズは、「OCNモバイルONE」としてMVNOのサービスを展開している。料金面では他のサブブランドより安く、大手MVNOと同水準をすでに実現済みだ。新たなサブブランドをゼロから作るより、OCNモバイルONEの位置づけを変えた方が、スピーディな展開が可能になる。UQ mobileを統合し、auのサブブランドとしての立ち位置を強化したKDDIのように、NTTがグループのMVNOを再編する可能性は十分ある。今後の展開に注目したい。

(文・石野純也)

関連記事

Techableの最新情報をお届けします。
前の記事
次の記事

#関連キーワード


WHAT'S NEW

最新情報