8月11日に開催された決算説明会で、楽天の会長兼社長の三木谷浩史氏が明かした。新規参入時に総務省に提出していた基地局の開設計画では、26年3月末までに人口カバー率96%を目指すことがうたわれていたが、5年程度、計画を前倒しにした格好だ。
インフラ整備を急ぐ
20年3月時点では4738局だった基地局数は、6月に5739局まで増加。すでに電波を発射し、利用している基地局に加え、建設の契約が締結された場所も7487あるといい、21年3月には人口カバー率70%を達成する予定。ここから数カ月で、人口カバー率を26%引き上げる計画だ。楽天の三木谷氏は、「基地局建設は都市部が一番難しいが、そこを乗り切ったのが大きい」と自信をのぞかせた。
楽天モバイルは、現状、自社でカバーできていないエリアを、KDDIのローミングで補っている。東京23区の屋外では、ほぼ楽天モバイルの自社回線に接続するようになったほか、それ以外の都市部でもエリアを広げている。一方で、都市部でも地下街や屋内ではauローミングに切り替わることは多い。首都圏でも、東京23区から出るとまだ穴は目立つ。
ユーザー視点では、auローミングによる高速通信が月5GBまで利用できるため、圏外になってしまう心配はないものの、楽天モバイルは1GBあたり約500円をKDDIに支払わなければならない。自社エリア外に生活圏のあるユーザーが増えれば増えるほど、財務上の重しになるというわけだ。
逆に、エリアが広がれば、そのぶん自社回線の比率が上がるため、ローミング費用の負担は小さくなる。ユーザーにとっても、データ通信の容量無制限になるため、メリットは大きい。
人口カバー率96%で完全に日本全国をカバーできるわけではない点には注意が必要だ。そもそも、人口カバー率とは、日本全土を500メートル四方に区切った際に、50%以上通信できるエリアの比率を示した数値。51%でも「通信可能」に識別されるため、厳密に言えばエリアの穴は残る。
数字が100%に近づけば近づくほど、0.1%を上げていくのが難しくなると言われており、屋内などは数字にも反映されない。21年夏以降は、こうしたスポット的な穴をいかに埋めていくかの戦いになりそうだ。
とは言え、楽天モバイルが持つ4Gの周波数は、1.7GHz帯だけで、大手3社と比べると使える帯域は非常に少ない。
申し込み数が100万を超えた今は十分な速度が出る一方で、ユーザー数が1000万単位に増えたときに、どこまでインフラが耐えられるのかは未知数だ。同時に、モバイル通信のインフラは5Gに世代が移り変わりつつある。楽天モバイルは、5Gのインフラ整備も急ぐ必要がある。
近づいてきた5Gのサービスイン
新型コロナウイルスの影響で5月に予定していた5Gのサービスインを延期した楽天モバイルだが、開始は間もなくに迫っている。三木谷氏が「料金プランには驚きもあるかなと思う」(三木谷氏)と語っていたように、4Gとは別体系の料金になる可能性もある。楽天モバイルには3.7GHzと28GHz帯の2つが割り当てられており、条件は大手3キャリアに近い。大手3社のエリアもまだまだ狭く、ゼロベースからのスタートになるため、楽天モバイルにとって、チャンスがあると言えそうだ。
5Gでは、完全仮想化されたネットワークを生かし、プラットフォームビジネスにも力を入れていく方針だ。
そのカギになるが、「Rakuten Communication Platform(RCP)」。コアネットワークの各機能をコンテナ化したもので、汎用機器の上で動くソフトウェアで作られているため、機能の追加が容易になる。スマホにおけるアプリマーケットのネットワーク版と考えれば、理解しやすいだろう。
RCPの5Gコアは楽天モバイルとNECが共同開発したもので、海外キャリアにも販売する方針。通信機器ベンダーの1社として、ビジネスを拡大していく。低コストで導入できるのが海外キャリアにとっての魅力で、70以上の見込み顧客と導入の議論が進められているという。
ネットワーク分野には、エリクソン、ノキア、ファーウェイなど競合が多く、実際にどこまで採用されるのかは未知数だが、新たなビジネス戦略として注目しておきたい。
(文・石野純也)