そんな社会課題を解決すべく今年の5月にリリースされたのが、モバイルアプリ「NOW ROOM」。マンスリーマンションやシェアハウス、さらにはホテルやゲストハウスなどの空室を検索し、初期費用0円で1カ月から借りることができるサービスだ。
今回は同アプリを開発した株式会社Living Tech代表の千葉史生氏にインタビューを行い、彼の考える「短期賃貸市場のDX化計画」について詳しく話を聞いてきた。
「働き方」の多様化に追いつけていない日本の「住み方」
ーーまずは、千葉さんが考える「日本における短期賃貸市場の問題点」について伺えますか?千葉:これはみなさんも感じていることだと思いますが、初期コストの高さですね。僕たちの究極の目標は「家賃(初期費用)を下げる仕組み」をつくることなんです。
ーー確かに、紹介料や敷金・礼金に加えて、家具や家電を揃えるとなるとかなりの初期費用が必要になりますよね。
千葉:あとは、「労力」という意味でのコストもかなり必要になります。いろんなサイトで物件を探して、内見に行ったり、書類を何枚も用意したり……。ほんの1カ月借りたいだけなのに2,3週間のプロセスが必要だったりしますよね。
また、「審査」も問題点のひとつです。海外から来ている人やフリーランスの人たちにとってはかなり深刻な問題になっています。
要するに、「働き方」が多様化して柔軟になってきている今、「住み方」が追いついていないんですよね。
ーーそういった課題を解決するためのサービスが「NOW ROOM」ということですね?
千葉:はい、今の短期賃貸コストが高い理由って、デジタルトランスフォーメーション(DX)化が遅れているからだと思うんですよね。
物件データがブラックボックス化されていて、流動性が低く、価格も固定されたまま。入居までのプロセスも面倒です。
「NOW ROOM」は今空いているすべての部屋をデータ化し、需要供給バランスを考慮して価格の適正化を行い、短期賃貸として提供。入居までのプロセスもすべてオンライン化しました。
また、入居者の支払い状況や滞在時評価などのデータを蓄積し、次の入居審査に役立てる事で、都度の審査作業やコストを省く事が可能です。
ーーなるほど。「入居までのオンライン化」と聞くと、OYO LIFEと考え方が似ているように感じます。
千葉:目指す方向性は近いかもしれませんが、“How”が違います。
「NOW ROOM」では借り上げモデルではなく、空室を活用するようなシェアエコの考え方に近いんです。
私達は物件を持たずプラットフォーマーとして、「空室情報・入居者のデータ化、物件の価格適正化、退去までのオンライン化」を行い、お金も労力もより低いコストで済むようにサービスを提供しています。
住み方の選択肢を増やすために在庫の最大化を
ーー「NOW ROOM」ではマンスリーマンションやシェアハウス以外に、ホテルや民泊も取り扱っていますよね。これはどうしてですか?千葉:まず大前提として、「NOW ROOM」では提供する在庫を最大化したいという考えがあります。
利用ユーザーにとって選べる物件が数ないと、その時々の暮らしの多様性にマッチできないと思うんです。
ーーユーザーの選択肢を増やすため、ということですね。
千葉:一方で、ホテルや民宿側の課題解決という目線もあります。というのも、実はホテルや民宿も「空き部屋問題」に頭を抱えているんです。
そもそも日本のホテルというのはGOP(営業利益)が非常に低い。つまり損益分岐点が非常に高いビジネスモデルなので、売り止めをしなくてはいけません。
ーーどれだけ部屋が空いていても安売りできないということですか?
千葉:そうです。結果としてコロナが流行る前の2018年でも約40%の空室率があり、恒常的に売れない在庫を抱えている状況です。年間だと全国で2.6億室分も空いている計算になります。この「売れない空室」を有効活用しよう、というのがホテル側への提案です。
ホテルでかかる2大コストに清掃費と管理費があるんですが、この2つは30泊以上の連泊になると大幅に削減されますよね。
もともと1組1泊の計算で考えられていたためADR(平均客室単価)が高くなっていましたが、1カ月単位の賃貸になると安く提供することができるようになります。
ーー結果的に安売りしてもGOPが良くなるわけですね。いま、「NOW ROOM」ではマンスリー市場と宿泊市場を扱っていますが、今後普通賃貸の市場にも広げていくご予定はありますか?
千葉:まさにいま取り組んでいるところでして、普通賃貸のサブリース業者や管理会社にアプローチしています。
「NOW ROOM」では、家具のレンタルサービスや保険会社とも手を組んでいるので、空き部屋を持っているサブリース業者にとってもメリットがあるんですよね。
ーーそこまで選択肢が広がってくると、高い初期費用を払って長期賃貸を借りることに疑問を抱く人も多くなりそうですね。では最後に、今後の展望について教えて下さい。
千葉:今はコロナの影響で移動が制限されてしまっているのでユーザーの数はあまり多くありません。しかしアフターコロナ時代を考えると、移動の需要は回復してくると思いますし、「住み方の多様性」を受け入れる環境は必要だと考えています。
そのときにしっかりと受け入れられる体制を作っておくためにも、まず今年は在庫の確保を進めたいと思っています。
マンスリーマンションやホテル、家具の有無など、「住み方の選択肢」がたくさんある状態をつくっていきたいですね。
千葉史生(ちば・ふみお)
早稲田大学・Kings Collegeを卒業後、ロンドンのSierに就職し法人営業を担当。
英国にてインバウンド・越境EC等の創業・売却等を経て、2019年よりNOW ROOMの開発を開始。2020年5月ローンチ後1ヶ月で15,000室の在庫数、5000室を開放し、短期賃貸におけるNo.1プラットフォームを目指している。