なお、同実験には主な共創パートナーとして株式会社三菱地所設計(設計者)、株式会社オカムラ(オフィス家具)、日本マイクロソフト株式会社(クラウド)らが参加している。
環境データとヒトのデータ
近年の働き方改革や新型コロナウイルスの影響により、オフィス改修やシェアオフィスなどの需要が増大中だ。そんななか同社は、オフィスの温湿度やCO2などの環境要素の収集とともに、従業員を活用したオフィスワーカーの心理データや位置・動線の解析データを可視化し、オフィス自体に機能が付加されたオフィス空間を創造しようとしている。同実験では、同社のもつLPS(ローカル・ポジショニング・システム)を活用したヒトの動きの測定や、空間環境センサを利用したヒトの密度計測を実施。このデータを温度、湿度、CO2などの環境データとすり合わせ、環境が働き方や部署間の交流に与える影響を可視化し、組織設計やレイアウト変更の提案、設備設計・改修提案に活用するという。
また、従業員に対し通常のアンケートに加えてスマートフォンを用いて直感的に入力するマトリクスアンケートにより把握した心理状態を、環境要素やカメラを用いたヒトセンシング情報(表情・感情データ)と照らし合わせ、因果関係を分析する。これは、照明配置設計や植栽などの最適配置といった空間設計を決定する指標となり得るようだ。
データの活かし方
以上のような環境およびヒトデータの分析に基づき、フリーアドレスエリアに「リラックス」「リフレッシュ」「集中」の3つのゾーンを構築。各照明・音・気流デバイスを制御可能なフレキシブルなゾーニング制御方式を導入し、自由に変更することができる空間制御を可能にした。また、従業員がどのような照明、音、気流を好むのかも検証するとのこと。会議室においては、カラー照明と空調をクラウドで連携制御し、ダイナミックな変化による空間価値を検証する。ひとつの会議室がさまざまなユースケースに対応することで、多目的利用でき、ひいては省スペースに寄与するだろう。
さらに、システム天井の照明器具に配線ダクトをビルトインすることで、天井面への機器の追加や移動が容易な設備インフラを構築し、機器追加やレイアウト変更時の電源確保の省施工化を実現。これにより、変化するニーズに幅広い提案が可能となる。今後は配線ダクトに対応した機器を拡充し、天井面からの気流活用の有効性検証にも取り組むとのこと。
ほかにも、エントランスには映像・風・香りを届けるエアサイネージを、コミュニケーションエリアには気流でクローズ空間を創るエアコクーンを設置し、パーソナルルームでは仮眠・集中に適した空間価値の検証を行うようだ。
デジタルツイン構築
同実験において注目したいポイントのひとつに「オフィスのデジタルツイン構築」がある。同ビルでは、日本マイクロソフトのAzure上にSmart Building&Spacesサービス基盤リファレンスアーキテクチャを活用した「統合ワークプレイス管理基盤(IWMSプラットフォーム)」を実現。
建築データに加え各種センシングデータを統合することで、現実空間の環境をも反映した仮想空間を構築したのだ。これは、リアル環境では試せない仮説のシミュレーションや3Dを使った提案に活用される。
さらにこのデジタルツインを活用し、ヒトの密度情報から空気の澱みなどの環境変化を先読みする気流制御の検証を行うとのこと。
パナソニック株式会社