そんなマルタでは、デジタルゲーム産業も盛り上がりみせており、ゲームの研究に力を入れる研究機関が存在する。今回は、マルタ大学の研究機関のひとつでもあるデジタルゲーム研究機関「The institute of digital game 」の教授Stefano Gualeni氏にインタビューを行い、ゲーム研究について伺った。
The institute of digital gameでの研究や活動
ーーThe institute of digital game はゲームの研究のための専門機関ということですが、どのような研究が行われているのでしょうか?The Institute of Digital Gamesは、マルタ大学のゲーム研究と、ゲーム技術の研究、そして教育の場です。主にゲームの制作や分析を中心に、幅広い分野に渡り革新的な研究を行なっています。私たちのチームは、諸専門分野からなる様々な研究者で構成されており、テクノロジー哲学、コンピューターサイエンス、ゲーム研究、ヒューマンコンピュータインタラクション、ビデオゲーム音楽の研究、バーチャルワールドの研究など、総合的・多角的な側面からゲームというものにアプローチしています。
ゲームデザインとゲームテクノロジーの先駆的で表現力豊かな可能性に焦点を当て、ゲームとゲームプレイについて日々探索を重ねているのです。ーーマルタでは国を挙げてゲーム研究への取り組みも盛んだと聞きましたが、実際にマルタ政府とはどのような連携をとっているのでしょうか?
マルタ政府は、約10年間、デジタルカルチャーと、デジタルシチズンシップに投資を行なってきました。2013年に設立して以来、私たちはマルタの地元およびヨーロッパレベルで多くの資金提供を受けた研究プロジェクトに携わってきています。これまでに、論文やジャーナルの記事、書籍など170を超える学術出版物を発行してきました。
ゲームを通じて風刺する建築事情
ーー最近、The institute of digital gameからリリースされたゲーム「Construction BOOM! ?」について伺えればと思います。まず、教授の専門は、どのような研究になるのでしょうか?私の場合は、哲学とバーチャルワールドについての研究が専門になりますが、デジタルゲームをデザインする哲学者として、また哲学に情熱を燃やすゲームデザイナーとして、バーチャルワールドの役割について研究しています。
例えば、バーチャルワールドを、アイディアや世界観、思考の変化をもたらし、経験的にコミュニケーションをとることができるインタラクティブな場所として捉えているのが私の研究です。研究内容に応じて、学術的な論文やインタラクティブなデジタル体験によってアウトプットを行なっています。
最新の研究では、バーチャルワールドにおける倫理、モラルやルールという観点からのゲームデザイン、およびSF研究に関する研究に焦点を当てており、「Virtual Existentialism」という書籍を出版したところです。同書の中では、バーチャルワールドを利用することで、これまでに経験したことのない人間のあり方を探ることができることを説明しました。
「Construction BOOM!?」は、ゲームの学術的な観点からの理解と実用的なゲームデザインスキルの両方を必要とするプロジェクトのひとつです。私たちは、具体的な政治的ポイントを意識してゲームを開発しました。またゲームというものが、私たちの文化的な面を刺激し批判を行うというプロセスになりうるということを示すことも目的のひとつです。
ーー「Construction BOOM!?」はマルタの建築事情を取り上げた風刺ゲームということですが、具体的にはどのような特徴を持つゲームなのでしょうか?「Construction BOOM!?」は世界中のプレーヤーがWebサイトから無料でダウンロード、印刷しプレイすることができる2人対戦制のゲームです。プレイヤーは、マルタの特徴的な家のイラストが描かれたカードを並べ、建物を増やしていくことで対戦する仕組みです。
プレイヤーは不動産業者として、多くの建物が建てられるようカードを並べていきますが、これはマルタの自由奔放な住宅建設への風刺をゲームの中に反映させており、また、小さな島の不動産ビジネスのブームへの批判でもあります。タイトルに「BOOM」が使用されている点については、少しブラックなユーモアがあります。ブームには、財政的に好況であるという意味だけでなく、悲惨なほど頻繁に私たちの島の建物が倒壊していると意味も含めました。
マルタの建築現場での崩壊の事故は頻繁に勃発しており、過去2年間で何度もニュースになっています。しかし、建築に関しての規制を作り、ビジネスの管理を強化するという考えは、公の場で取り上げられていません。まさにこの点に着目したのが、私たちのゲームです。
そもそもゲームのアイデアは、私がマルタの海岸に座り建物を眺めているときに思いついたものです。海岸から見る建物の奇妙さ、規則性、不規則性に気がつきました。かねてから、マルタが迅速で安価、また安全規則や伝統的な建物、緑地を尊重せず建築を行なっていた点を問題視していたことも関係していますね。私たちはマルタの生活とマルタの政治のこれらの側面をゲームの要にし、島に住んでいる人の様子が見えるようなゲームにしようと考えました。そのために私たちが選んだ手段は、「風刺」を使用することです。そして、全体の状況がいかに馬鹿げているかを面白く表現しようと試みた結果、お金を稼ぐことだけを考え、プレイヤーが迅速に建物を構築していくゲームを開発したのです。
ゲームの最後には、カードが構築されたことによって、まるでマルタの海岸から見たような建築と非常によく似たものが残ります。その様子は、現実の風景とそっくりなものになるでしょう。
ーーゲーム制作の際に大変だったことは?
「Construction BOOM!?」の開発において、おそらく最も困難だった点は、「シンプルでわかりやすく楽しいゲームにする」ということと同時に「意味が通じるようにルールを整える」という点です。ゲームの中でプレイヤーにとって重要なことは、不動産の建築を通じてできるだけ多くのお金を稼ぐこと。そのために、このゲームでは、カードを並べた時の美しさ、一貫性、歴史的建造物の保存、建物自体の健全性などの側面をプレイヤーが無視するように強制しています。
この2点の側面を一致させるのは容易ではありません。ゲームとして機能させるためには細かい点に到るまで多くの設計とテストが必要とされました。
ーー実際にゲームをしてみた人の様子はいかがでしたか?
マルタの地元の状況を知っている人がゲームをプレイした時、プレイヤーはゲームが現実を反映している点について何度も笑っていました。
人によっては、このゲームのルールを理解し、対戦するのが難しいと感じる人もいます。しかし、政治的なゲームは、「一度に多くのことを行える必要がある」という考え方に基づいているのです。シンプルで完結なメッセージのほうがわかりやすいでしょう。しかし、一方で、純粋にゲームとして楽しんでもらうことで、最終的にはその政治的なメッセージにも興味を持ってもらえることにつながるはずです。
ーーところで、教授は日本の文化からも影響を受けたということですが……。
はい。日本の文化は、ヨーロッパで暮らす私の世代の人々に大きな影響を与えており、私も大きな影響を受けています。80年代と90年代には、例えば、「ダッシュ勝平」や「ヤッターマン」「銀河鉄道999」などの作品を地元のテレビ局が放送しており、楽しみに見ていました。
ちなみに、2021年3月には、京都の立命館大学の客員研究員として来日する予定です。ぜひ、日本の皆さんにも「Construction BOOM!?」を楽しんでほしいです。そして皆さんの感想を聞いてみたいです!
The institute of digital game
Construction BOOM!?