株式会社リクシィのコーポレートミッションには、長い間イノベーションが起きていなかったブライダル業界にメスを入れ、現代の多様なニーズに応えたいという思いが込められている。
そんな同社が先日、「トキハナ」というサービスをリリース。また、新型コロナウイルスの影響で注目されている「オンライン結婚式」の紹介サービスも開始するという。
昭和から平成、令和、そしてコロナ時代を経て、変わってきたニーズや価値観。その上で”結婚式があふれた世界を創る”ために同社が提案する新しい結婚式の形とはーー。
結婚式の常識を“トキハナツ”オンライン結婚式場探し「トキハナ」
ーー今回リリースされた「トキハナ」は、これまで運営してきた「Choole」と「gensen wedding」を統合してできたサービスなんですよね。それぞれのサービスの特徴について教えていただけますか。安藤:まず「Choole」は、持ち込みが自由の式場をオンラインで紹介するサービスです。
従来の結婚式では、式場を決めたあとに、そこで提供されているドレスやフラワーを選び、フォトグラファーやヘアメイクを決めていくというのが一般的でした。
しかし、最近ではInstagramなどのSNSが普及し、ドレスやクリエイターの情報から結婚式を考え出す人が増えてきているんです。結果として、式場はここがいいけど、ドレスは持ち込みたいとか、ヘアメイクはこの人にしてもらいたいとか、そういったニーズが出てきました。
そんなわがままを叶えられるのが「Choole」です。
ーー自分ですべて選びたいというニーズに応えるサービスということですね。
安藤:一方、「gensen wedding」は無料で結婚式場探しのサポートをするオフラインのサービスです。
自分たちの希望にあった式場選びって実は結構難しくて、良さそうな式場を見つけて見学に行ったら写真と違っていたり、最低人数の決まりがあったり、日程が埋まっていたり……。費用についても、契約時は安かったのに当日になると数十万上がっているということもざらにあります。
そういった課題を解決するのが「gensen wedding」。
元ウエディングプランナーが目利きして厳選した式場の中から希望にあったものを紹介するので、式場選びで何件もまわったり、費用を交渉したりしなくてもよくなります。
ーーなるほど。では今回その2つのサービスを統合させたのはどうしてですか?
安藤:もともとこの2つのサービスはターゲットが違うと思っていたんですが、実際はそうでもなかったんですよね。
例えばChooleだと、「持ち込みたいものがあってその上で式場を探している人」を想定していましたが、実際には「Choole」を利用したのに持ち込まない人がかなり多くて。気に入ったドレスやフラワーがなかったときのために”念の為”持ち込みOKにしておきたい、というニーズが強かったんですよね。
現状「Choole」で登録してくれた人に「gensen wedding」の式場を紹介したり、その逆もあって、だったら統合させようと。事業展開上もスケールしやすくなると思ったので。
時代の流れとともに変わってきた結婚式に対する価値観
ーー新しくリリースされた「トキハナ」は、現代の多様なニーズに応えるサービスだと思いますが、ここまで多様化が進んだ背景にはどのような価値観の変化があるのでしょうか。安藤:そもそも昭和時代の結婚式というのは、両家が自分たちの子供を披露する場だったんです。「披露宴」という名前の通り「お披露目」に主眼が置かれていたんですよね。
それが平成に入り、自分たちの結婚式は自分たちで考えようというニーズが出てきて、親が開くものではなく、自分たちで開くものに。そして、「自分たちらしい結婚式がしたい」という考え方が広がっていきました。
同時に、結婚式の意義も「お披露目」から「おもてなし」に。ゲストに喜んでもらうために開催しています、という立て付けになってきたんです。
ーー確かに、「自分たちらしい結婚式を」という考え方は多くの人が持っている気がしますね。
安藤:この考え方が進んでいった結果、最近では「式場のパターンは増えたけどまだまだ内容は画一的だ」と考える人が出始めてきました。
そうなるとどんどん多様化が進んできます。ケーキカットはやりたくないとか、誓いのキスは恥ずかしいとか。細かいところだと、祝儀はなんで3万円なのかとか、招待状は紙なのかとか……。
ホスト・ゲストの立場がある「おもてなし」としての結婚式ではなく、みんなで同じ時間を楽しみたいという新しい意義付けも生まれてきています。
そうやってこれまでになかったような結婚式が出てきている一方で、結婚式を挙げない「ナシ婚」というのも多くなってきているんです。
ーーなるほど。多様化が進んだ結果、結婚式をしないというのもひとつの選択肢としてでてきているわけですね。
安藤:私はこの「ナシ婚」を減らしたいと思っています。いろいろ理由があると思いますが、挙げないのはもったいないなって。
だから、「こういう結婚式だったらやってもいいかな」というものをどんどん作っていきたいんですよね。弊社では、これまでにもいろんな結婚式の形を提示してきましたが、いま取り組んでいるのが「オンライン結婚式」。
ーーコロナの影響で注目されていますよね。ただ、オンライン結婚式はオフラインができなかったときの妥協策というイメージがあるんですが。
安藤:確かに、どうしても延期することができず、中止にするくらいならオンラインで開催しようという消極的な使い方もあります。
でも私はオンラインだからこそのメリットもあると思っているんです。
まずオフラインに比べて圧倒的に費用が安くなりますし、海外にいる友だちや遠くに住んでいる祖父母も招待しやすくなります。誰を呼んで誰を呼ばないかということも考えなくて済むようになる。
呼ばれる側も、拘束される時間が短くなるし、祝儀負担も少なくなるかもしれません。呼ばれなければ行けないし、呼ばれたら行かなきゃいけないということもなくなるでしょう。
ーーなるほど、費用がかかるからやりたくないとか、わざわざみんなに集まってもらうのは申し訳ないとか、そういう理由で結婚式を挙げない人にとっては選択肢のひとつになるかもしれないですね。
安藤:コロナウイルスの影響による妥協策ではなく、もしかすると今後はポジティブな意味合いでオンライン結婚式を選ぶ人も出てくるかもしれません。
私達がやるべきことは、時代とともに進んできたニーズの多様化に合わせて、結婚式の多様化を推進していくことだと思っています。ウエディング×ITで新しい結婚式の形を提示していきたいですね。
取材後、一般公開型のオンライン結婚式に参加させてもらった
リクシィは、SOFT CONTENTS MANAGEMENT社、CHET Production社と共同で、オンライン結婚式サービス「V(ブイ)ウェディング」の提供を開始した。これに先立ち、第1回オンライン結婚式を5月24日に開催。バーチャルスタジオで開催されている結婚式をオンラインで視聴することができるのだ。
世界初となるバーチャル結婚式は、美しい緑に囲まれた場所でスタート。まるで海外ドラマのような世界観の中で、幻想的な挙式が行われた。
背景を変えることで、挙式から披露宴パーティへの切り替えもスムーズに。通常、新郎新婦が席を外してお色直しをするところ、バーチャル結婚式では背景を変えて雰囲気を変えることができる。
乾杯の音頭や友人の挨拶では、その人の画面が映し出される。
通常であれば新郎新婦も含めた会場にいる全員に対して挨拶するのに対し、オンラインでの挨拶では新郎新婦と会話をしているようで、オンラインならではだなと感じた。
また、祝儀の代わりに投げ銭システムが採用されていたり、ハッシュタグを付けてSNSに投稿したものを司会者が読み上げてくれたりと、インタラクティブな仕掛けが用意されているので、オンライン独特の寂しさがまったくない。
確かにオフラインでしか伝わらないその場の雰囲気や、感動、あたたかみというのはある。しかし、今回バーチャル結婚式に参加させていただき、オンラインでしかできない体験というのもあるのかもしれない、と感じた。
今回オンライン結婚式を開催した富田ご夫妻の笑顔を見ていると、安藤氏が言った言葉が思い出される。
「オンライン結婚式が消極的な選択肢とは限らない」
安藤正樹(あんどう・まさき)
株式会社リクシィ代表取締役社長。花嫁の不安をトキハナツ結婚式場探し「トキハナ」を運営。「ブライダル業界の構造改革、結婚式であふれた世界を創る」をミッションに、結婚式を多様化し、ウエディングのアップデートを目指してリクシィ(REXIT)を起業。2度のIPO(ドリコムco-founder&エスクリ)、2度目の起業。