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Start Up 死んだ人を蘇らせる技術は、進化するのか、それとも淘汰されていくのか……

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死んだ人を蘇らせる技術は、進化するのか、それとも淘汰されていくのか……

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近年、AIやCGなどのテクノロジーを駆使し、「死んだ人を蘇らせるコンテンツ」が増えてきている。

なかでも、美空ひばりの復活プロジェクトは「NHK紅白歌合戦」でも披露され、新しいコンテンツの可能性を提示しつつも、ご存知の通り、賛否両論さまざまな議論が巻き起こった。

そんなセンシティブな領域に足を踏み入れるクリエイティブスタジオがある。東京都港区に拠点を置くWhatever Inc.だ。同社はこういった故人が復活する状況を「死後デジタル労働」と名付け、今年3月に、死後デジタル労働の意思表明プラットフォーム「D.E.A.D.」(Digital Employment After Deathの略)を公開した。

今回は同社のCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)川村真司氏にインタビューを行い、いきさつを伺ってきた。

死んだ人を蘇らせたい? 蘇らせたくない?

ーー「D.E.A.D.」は、デジタル上での自分の「復活」を許可するかどうかの意思表明プラットフォームなんですよね。まずは、そもそもこれを作ろうと考えた背景から伺えますか。

川村:最近、テクノロジーの進化によってデジタル上で「死んだ人を蘇らせる」というプロジェクトが増えてきていますよね。

美空ひばりのプロジェクトは有名ですが、その他にも手塚治虫の新作マンガを創作するプロジェクトや、ピアニストのグレン・グールドを復活させるプロジェクトなど……。

私たちも実はこれらに先んじて、去年の3月にNHK総合で放送された「復活の日~もしも死んだ人と会えるなら~」という番組の企画・制作に参画させていただきました。出川哲朗さんが、テクノロジーによって「復活」した今は亡きお母さんと再会する、という番組です。

ご周知の通り、こういった「死後デジタル労働」を使ったコンテンツには一定数の批判がつきもの。私達も制作しながら議論を重ねましたし、放送を見た方からも賛否両論さまざまな意見が寄せられました。

ーーセンシティブな領域ですよね。宗教的、あるいは倫理的な理由から反対する人も少なからずいる気がします。

川村:おっしゃる通りです。とはいえ、「死んだ人を蘇らせたい」という願望はとても理解できるし、それを擬似的にでも可能とする技術自体は素晴らしいので、たくさんの可能性を秘めていると思うんです。このまま批判にさらされ続けてそもそも実験されなくなっていくのはもったいないな、と。

そこでまず私達はアンケート調査を実施しました。「死後デジタル労働」についてみんながどう思っているか、嫌なら「なぜ嫌なのか」を知ることから始めようと考えたんです。

ーーサイトに掲載されているアンケート結果がそれですね。

川村:そうです。この調査では、「亡くなっている人間を、その人のデータとAIやCGなどを利用して『復活』させたいと思いますか」という質問に対して、76.7%の人がNOと回答しました。

そして、NOと回答した人に対して、その理由を質問した結果、「本人の意思が確認できないから」という回答が非常に多かったんです。

ーーならば本人の意志を確認できるようにしよう、ということですね。

川村:はい、生きている間に表明しておいてもらえれば、「意志が確認できない」という批判はなくなるので、 議論が一歩前進するかな、と。

今、死後デジタル労働に関する議論を

ーー最近、「死んだ人を蘇らせるコンテンツ」が増えてきているとのことですが、この領域における法整備はどのような状態なのでしょうか?

川村:実は、死後デジタル労働に関する法律は存在していないんです。

芸能人とかであれば、所属していた事務所などが「ライセンス所持」という形で使用権を行使することがあるようですが、基本的には死んだあとに例えば自分の肖像をどう使われるのか、ということなどについて権利を守ってくれるような法律はありません。

なので、今回の「D.E.A.D.」についても法的拘束力はなく、個人の意志として表明しておくことで抑止力につながるのではないか、というスタンスで公開しています。

ーー御社としては、法整備を目標にしているというわけではないですよね?

川村:もともとの目的ではありませんが、このプロジェクトを進めるうちに、そういったことも必要なのではないかと考えるようになってきましたね。

実は「D.E.A.D.」は、臓器提供カードにインスピレーションを受けているんですが、これも
法的に有効になるまでに30年くらいかかっているんです。

「死後デジタル労働」という考え方自体がそもそも新しく、一般化していくのにもある程度時間がかかるものだと思うので、今回公開した「D.E.A.D.」の法整備も含めて、その議論が活発化していく足がかりになればいいなと思っています。

ーーなるほど。では最後に、今後どのような活動を進めていく予定か教えていただけますか。

川村:サイトを公開し、いろいろなコメントや反応をいただき、それを受け止めた上で、さてこれからどうしようか、と考えている感じです。いくつかの道が見えてきている状況ですね。

そのひとつが上述のような法整備。死後デジタル労働の法律とまでいかなくても、死後の肖像権といった権利問題は世の中にもっと認知されるような状況までになるといいなと感じています。

一方で、私たちはもともとコンテンツを制作する側の人間なので、「D.E.A.D.」や番組制作で学んだことを生かしてどのような新しいコンテンツを作るべきなのかを模索する、ということは考えています。

あとは、アンケートに関しても、現状のままだとまだまだ足りないと思っています。今回は日本とアメリカで1030名に対して行いましたが、世界全体で行うとまた違った結果や思いも寄らないラーニングがあるはずだと考えています。国や宗教によっても結果は違ってくると思うので、リサーチもアップデートしていって、より正確な世界の世論を整理できるといいなと。

また、個別にさまざまなアーティストや学者の方々と対談も進めているので、そういったものも改めて公開できたらいいなと思っています。

いずれにしても、「死後デジタル労働」というものについて、もっと議論を重ねていく必要があると感じています。もっと多くの方に知ってもらって、話し合ってもらって、その果てにいろんな道筋が見えてくると思うので。

(文・栄藤徹平)

川村真司(かわむら・まさし)
Whateverのチーフクリエイティブオフィサー。東北新社と共同出資して設立した、WTFCのCCOも兼任。Whatever合流前はクリエイティブ・ラボPARTYの共同創設者/エグゼクティブ・クリエイティブディレクターと同時にPARTY NYのCEOを兼任し全てのグローバルビジネスを担当。数々のブランドのグローバルキャンペーンを始め、プロダクト、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など活動は多岐に渡る。カンヌ広告祭をはじめ数々の賞を受賞し、アメリカの雑誌Creativityの「世界のクリエイター50人」やFast Company「ビジネス界で最もクリエイティブな100人」、AERA「日本を突破する100人」などに選出されている。

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