量子コンピューターは0と1の値を同時に保持できる量子ビットを用いるため、古典コンピューターに比べて並列処理能力が格段に高い。
ただ、量子ビットの不安定性が大きな課題で、シリコンチップ上の設計は特にむつかしい。研究チームが開発した人工原子は安定した量子ビットを形成し、シリコンベースの量子コンピューターを実現する可能性がある。
・原子核のない人工原子を量子ドットに作成
研究チームは、量子ビットとして電子が配置される空間「量子ドット」に、人工原子を作成した。シリコンに電圧を加えて電子を引き込んでいくと、直径約10ナノメートルの量子ドットに人工原子ができあがる。
この人工原子は、自然界の原子と違って原子核がない。通常の原子は原子核の周りの軌道上に立体的に電子が運動しているが、人工原子ではデバイス中心の周りに電子が平べったい軌道(シェル)を形成している(映像でイメージをつかんでいただきたい)。
シェルに電子が1つしか持たない水素やリチウム、ナトリウムなんかと同等の原子を配置すると、孤立した電子が量子ビットとして使用できるとのこと。
・複数の電子が量子ビット安定化のカギ
人工原子という考え方自体は1930年代からあり、最初の作成は2013年に成功しているとのことだが、今回の研究では、複数の電子を携えた人工電子を作成。これが量子ビットを安定させることがわかった。研究チームは、人工原子の電子の安定性をテストするためにシリコンベースの量子デバイスを作成。非常に不安定な1つの電子と比較して、5~13個の電子を持つ人工原子ははるかに安定していた。電子のスピンを制御することで、量子ビットを用いた計算の信頼性を高めることができる。
シリコンベースの量子チップが開発できれば、汎用的な家庭用量子コンピュータへの道がグッと近づく。このことからも同技術の今後の進展からは目が離せない。
参照元:Artificial atoms create stable qubits for quantum computing/ UNSW NewsRoom