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目をそらしてはいけない「5Gが抱える課題」。インフラ整備は誰がするのか

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2020年から開始される次世代の高速通信規格、5G。

さまざまなメディアで「何が変わるのか」ということについて取り上げられ、大きな期待が寄せられている。

そんな中、「5Gへの移行にあたり『課題』を考えることも重要だ」と話すのは、無線メッシュ技術の開発と実用化を目指すPicoCELA株式会社・代表の古川浩氏。彼は、3Gの世界標準策定チームのコアメンバーであり、基地局間協調ダイバーシチの考案者でもある。

今回は古川氏に、5Gの課題と解決の糸口について話を聞いてきた。

基地局増加のために必要となる莫大なコスト

ーー早速ですが、次世代通信規格5Gの開始にあたり課題となるのはどのような点なのでしょうか。

古川氏:まず、通信規格が新しくなる際に考えなければいけないのは、インフラ整備について。要するに、基地局をたくさん設置しなければならないんです。

これには物理的な理由があります。そもそも電波というのは、“1bit”という情報にどれくらいのエネルギーを与えるかによって到達距離が決まります。つまり、エネルギーが少なければ到達距離も短くなるわけです。

エネルギーというのは「時間」×「パワー」ですから、5Gの通信規格である「超高速(時間短縮)」を実現しようとするとエネルギー量が減って、結果として到達距離が短くなってしまうんです。

ーー基地局間の距離を短くしなければいけないということですね。代わりに「パワー」を増やすという手はないんですか?

古川氏:高速化(時間短縮)の代わりにパワーを数十倍にしたら、スマートフォンの電池は一瞬でなくなってしまうでしょうね(笑)。

さらに言うと、5Gではこれまでよりも高い周波数を使用することになっています。電波というのは、周波数が高くなればなるほど直進性が高くなり到達距離が短くなるという特性があるんです。

ーーでは必然的に電波の到達距離が短くなるので、多くの基地局を設置する必要があると。

古川氏:そうです。基地局の敷設にはかなりのコストがかかってしまいますので、いかにコストを削減するか、というのが日本だけじゃなく世界中で大きな課題となっているんです。

誰が投資して、どのように回収するのか……

ーーインフラ整備のコストが課題だということですが、投資を行うのは通信キャリアになるんですよね?

古川氏:そういうことになります。ただ、ここで考えなければいけないのは、「その投資をどうやって回収するのか」ということです。

ーー従来通り「通信料」という形で回収するんじゃないんですか?

古川氏:基地局の数は今の数倍から数十倍必要になります。つまり、投資コストも数倍になるわけですが……今の数倍の費用を通信料として回収することが現実的でしょうか。ただでさえ高い高いと言われている通信料をここからさらに上げられるでしょうか。

さらに世界的にみても、加入者はひとり1台どころか、2台、3台と持っているじゃないですか。これ以上利用者からお金は取れないと思います。

ーーでは、事業モデルを考え直す必要があるということでしょうか。

古川氏:そういう議論がそろそろ必要だと思います。そもそも、私も通信料として月々数千円をキャリアに支払っていますけど、本質的にスマホを使う理由は、通信回線を使うためではなく、様々なネット上のサービスを利用するためなんですよね。

検索したり、買い物したり、SNSで友達とつながるためなんですよ。なのにこれらの対価は、通信料としてほとんどをキャリアに支払わなきゃいけない。これって昔の黒電話の頃からビジネスモデルが変わってないんですよね。

昔は電話をすることが価値になっていました。つまり「電話網」というネットワークと「電話」というサービスが一体化していたんです。だから「電話料金」=「電話というサービスへの対価」として問題がなかった。

しかし、今って違いますよね。電話は、いまやLINEやSkypeなどインターネット上で展開されるアプリのひとつとなってしまったんです。なのに、いまだにこれらのサービスを受けるためにキャリアへ通信料を払っているというのはちょっとおかしいと思うんですよね。

ユーザーが受けるサービスと、その対価の支払先が整合していないと思うんです。

ーーなるほど。では例えばどのようなビジネスモデルが考えられますか?

古川氏:そうですね、いっそのことユーザーはサービス提供者に対して料金を支払い、サービス提供者がキャリアに対して通信料を支払う……みたいなお金の流れを大胆に変えるような発想の転換があってもいいかもしれません。

サービス提供者だって、通信回線を使って利益を得ている立派な「受益者」ですからね。通信料をユーザーだけが負担するっていう発想を変えてもいいと思いますよ。

あるいは、例えば、自動車メーカーが自動運転のインフラとして投資をして、彼らが新しい無線ネットワークを作っちゃうとかね。そうすると私たちは余った通信キャパシティをただで使えるようになるかもしれない。

いずれにしてもIoTはレベニューの鍵になると思いますよ。“人”から回収できないなら、“モノ”から取ろう、というね。

コスト削減のための「無線メッシュ」とは

ーー5Gを迎えるにあたり、インフラ整備にかかるコスト、そしてそのコストを回収する事業モデルについて考えなければいけないということがわかりました。御社はこういった課題と向き合っているんですね。

古川氏:はい、弊社ではインフラ整備に必要なコストを削減するために「無線メッシュ」という技術を実用化し、その普及を目指しています。先ほどお話しした通り、通信料をこれ以上高くすることは難しいので、インフラの整備コストをいかに低減するかが迅速な5G網実現の鍵になると思います。

基地局をたくさん敷設するということは、それぞれにLANケーブルを引っ張ってこなくちゃいけませんよね。つまりどこかの中央スイッチから運んでくる必要があるんですが、これがめちゃくちゃ大変なんです。

私たちがやっているのは、これを無線にするということ。基地局間を無線によってバケツリレー式に中継し、LANケーブル配線量を削減してるんです。

最近だと、越後湯沢にあるガーラ湯沢スキー場ゲレンデにおけるブロードバンドの無線空間化の事例があります。弊社の無線メッシュ装置14台を設置し、東京ドーム4個分の広さのWi-Fi空間を作りました。

ここでも、使用されているLANケーブルはわずか1本。全体の敷設コストはLANケーブルを使って配線する場合に比べて数十分の一で実現できました。

ーーインフラの整備コスト削減に御社の「無線メッシュ」が役立っているんですね。では最後に、古川さんが理想とする5Gの世界について教えてください。

古川氏:やっぱり消費者としては通信料が安くなるっていうのが一番嬉しいですよね。スピードが10倍速くなっても、通信料金が10倍では利用者は増えません。

そして、それを実現するためには技術のみならずビジネスモデルまで含めた事業構造の変革が必要になると思います。こういう壮大な変革への挑戦にロマンを感じずにはいられません。自分たちも、そういう世界を作る手伝いができればと思っています。

(文・栄藤徹平)

古川浩(ふるかわ・ひろし)
’93九州工業大学情報工学部助手、’96NEC中央研究所を経て’03九州大学大学院システム情報科学研究院准教授、’10~’18同大教授。一貫して無線通信技術の研究開発、標準化、事業化、そして教育に従事。 3Gの世界標準策定チームのコアメンバー。’08PicoCELA株式会社を設立。無線メッシュや無線リソース制御技術に関連する100件を超える特許を発明。工学博士。

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