日本よりも北に位置する英国では、暖房がエネルギー消費量の半分とCO2排出量の3分の1を占め、家庭の83%が暖房にガスを使用しているという。この暖房によるCO2排出量を削減しようと、英キール大学が水素を既存の天然ガスネットワークに20%注入するプログラム「HyDeploy」を行っている。
・既存の天然ガスネットワークに最大20%の水素を注入
キール大学が、イギリス環境安全庁(HSE)やエネルギー会社などと共同で進めるHyDeployは、英国のガス・電力市場局「Ofgem」が主催したコンペで700万ポンド(約9億9800万円)を獲得。水素は、燃焼すると熱と水のみを生成するゼロ炭素ガスだ。HyDeployでは、キール大学の既存の天然ガスネットワークに最大20%の水素を注入して、家100戸と30の学部の建物に暖房を供給している。20%という数値は、エネルギー会社Engie社がフランス北部で実施している同様のプロジェクトと並んで欧州で最高値となる。
当プログラムでは、水素ガスを生成する電解槽システムの製造会社ITM Power社が、電解槽で水分子を水素と酸素に分解して水素を生成。研究チームは実験室で、さまざまなガス機器を使って多くの試験を行い、試験地域の家と建物でガス安全試験を実施した。
20%の水素混合物が全国展開された場合、毎年CO2排出量を約600万トン節約できる。これは、車250万台のCO2排出量に相当し、既存のガス機器や配管をそのまま使って供給できるのも大きな利点となっている。
・スマートエネルギーネットワーク実証にも取り組む
2019年、キール大学は「気候緊急事態」を宣言し、2030年までにカーボンニュートラル達成を目標に設定。さらに、キール大学は企業や研究者や卒業生らとともに、実際の環境で新エネルギー技術の研究開発や試験を行う、欧州初の大規模スマートエネルギーネットワーク(情報通信技術を使った、地域に最適な熱と電気のエネルギーネットワーク)実証に取り組んでいる。今後の展開が大いに期待される。
Keele University