第一弾は、多拠点居住シェアサービスの「ADDress」について。そして第二弾では、ホステルに泊まり放題の「Hostel Life」を取り上げた。
そして第三弾となる今回ご紹介するのは、定額で世界中の拠点に住み放題になるサービス、「HafH(ハフ)」だ。同社共同代表を務める大瀬良亮氏への取材内容を踏まえながら、その詳細について説明する。
まずはサービスをざっくり説明
まずはサービスの概要について簡単に説明する。
「HafH」は、長崎に本社を置く株式会社KabuK Styleが提供している定額制の住み放題サービスだ。
正式リリースは2019年の1月だが、その先駆けとして2018年11月にクラウドファンディングサービス上でプロジェクトを開始し、多くの支援者を集めた。
「世界を、旅して働こう。」というサービスコンセプトからもわかる通り、「HafH」の大きな特徴は、“世界”をフィールドにしているという点だ。はじめから英語サイトを立ち上げており、すでに国内外17の国と地域134都市に194もの拠点を置いている。
サービスのユーザーについても、日本人だけを対象としているわけではない。ここについては後ほど詳しく説明するが、株式会社KabuK Styleが世界を代表するCo-living(コリビング)サービスを作ろうとしているということだけは先にお伝えしておこう。
ところで、「Co-living」というのは、複数の人がともに働く「Co-working(コワーキング)」に、ともに生活する概念を掛け合わせたライフスタイルのことだ。しかし「Co-living」と聞くと、“交流”を重要視し、肝心の“働く”という点がなおざりになっているイメージを持つ方もいるのではないだろうか。
「HafH」は、この“働く”という点を非常に重要視しており、各拠点に働くための場所をしっかりと用意している。旅をしながら働く、というスタイルの人たち、あるいは、リモートワークやワーケーションを通じて「旅して働く」スタイルに関心がある人たちにとってはかなり大事なポイントになるだろう。
念のためにいっておくと、同社が“交流”を抑制しているという意味では全くない。共に暮らす人たちと話したいという人は、心ゆくまで交流することができる。
多様な価値観を多様なままに
「HafH」には、ユーザーのサービス利用頻度に応じて複数のプランが用意されている。
試しに少しだけ使ってみたいという人向けには「おためしHafH」というプランがあり、月額3,000円で利用することができる。逆に、家には帰らず旅をしながら働きたいという真性のアドレスホッパーなら「いつもHafH」という月額82,000円で住み放題のプランがいいかもしれない。
このように、いくつものプランが用意されているのは、株式会社KabuK Styleがこのサービスを立ち上げた背景に由来している。まずはそこからお伝えしたい。
今、世の中ではテクノロジーの発展によって、さまざまな働き方や住み方、ライフスタイルが生まれてきている。フリーランスで旅をしながら仕事をする人もいれば、週3日勤務の人もいる。あるいは、海外から日本に働きにきているという人もいるだろう。
しかし、こういった多様なライフスタイルに対して、それらに対応するフレキシブルな住居サービスが日本には多くない。
「HafH」はいわば、多種多様な個人のニーズに対応するための“フレキシブルな不動産”なのだ。
このように書いてしまうと少しスケールが小さいように思われるかもしれないが、これは同社が思い描く「HafH」というサービスのスタートラインに過ぎない。代表の大瀬良氏は次のように話している。
大学を卒業して大企業に入って勤め上げる、という従来の正義がここ数年で大きく変わってきました。これからは、多様な生き方が当たり前になり、個人個人が働き方や住み方を選ぶような時代になってくると思います。
そうなったとき、個人が考えなければいけないのは住居や仕事、移動や食といったことです。私たちは、それらを定額制で最低限提供できるようなセーフティネットを作ろうと思って「HafH」を立ち上げました。その中で最初に取り組んでいるのが「住」という領域なんです。
「HafH」に多くのプランが用意されているのも、個人がそれぞれの状況に応じて“選択できる”ようにするためなのだ。
また、現状では「住」という領域にフォーカスしているものの、今後さまざまな領域に広げていくことを見据えて、同サービスには「HafHCoin」なるものがある。「HafH」のサービスを利用すると貯めることができ、「HafH」のサービス内で使うことができる、というものだ。
現状、その使い道は「利用可能な部屋のグレードアップ」に限定されているが、サービス領域が広がれば、その利用先も自ずと広がっていくだろう。
家を出るからこそ手に入れられるもの
多様な価値観を許容する社会を作るため、そして多様な生き方を選択しやすくするために作られたサブスクリプションサービス「HafH」。その足掛かりとして「住」という領域にフォーカスしたわけだが、大瀬良氏いわく、別の狙いもあるという。
結論からお話しすると、その狙いとは、「移動の促進」だ。
現代の日本では、インターネットやスマートフォンの普及によって、生活者の外出行動が減少しているという。株式会社ジェイアール東日本企画のプロジェクト組織であるMoveDesign Labが実施した「Move実態調査2017」という調査では、20代は70代よりも移動回数が下回る、という結果が出ている。
Uber Eatsでご飯を注文し、Netflixで動画をみていればあっという間に1日が終わってしまう。家だけで得られる満足度が高くなっているのだ。
そんな状況で移動を促進させようと考えた理由は、大瀬良氏の原体験にある。
前職が株式会社電通なんですが、3年ほど政府に出向していたんです。そのときの働き方がまさに“旅をしながら仕事をする”という感じでした。
そのとき、どこの国にいてもスマホとネットさえあれば働けるんだ、という当たり前なことに気づいたんですよね。それと同時に、「海外から見た日本」とか「新しい考え方」みたいなことを感じやすくなっていることにも気づきました。
こういうことって実際に体験しないとわからないですし、言葉で表現しようとしてもうまく伝えられないんですが、漠然と、「みんなもっと外に出ればいいのにな」って思ったのを覚えています。
外に出ることで得られるものが何なのかを尋ねてみると、「それは行ってみなきゃわからないですよ」と答えた。だからこそ面白いのだという。
移動しやすくなったのに移動しなくなった今、あえて移動することの素晴らしさを知ってもらいたい。「HafH」には、そんな思いも隠されているのだ。
進化を続けるKabuK Style
最後に、今後の展望について大瀬良氏に聞いてみた。
日本発だということがわからないような、グローバルに使われるサービスにしたいと思っています。
そのためには、拠点数の拡充はもちろん、あらゆる価値観に対応できるサービスにしていく必要があります。そして、中長期的には「住」以外の領域にもチャレンジしていきたいですね。
「HafH」というサービス名は、“Home away from Home”の頭文字をとって付けられたそうだ。
多様な価値観が許容される世界では、今のhomeだけが唯一のhomeとは限らない。第2の家、ふるさとを作る手助けをするため、株式会社KabuK Styleはこれからも前進していく。
HafH
(文・栄藤徹平)