これまで富裕層やリタイア組が楽しむものとされてきた二拠点生活(デュアルライフ)は、空き家やシェアハウスの活用などによってより多くの人が楽しむ時代になっていく、と発表したのだ。
実際、2019年はそういった住まいに関するサービスが注目を集めた年になったと言える。中でも、定額制の住み放題サービスADDress、Hostel Life、HafHの3つはデュアルライフを望んでいる人たちにとって興味深いサービスだろう。
そこでTechable(テッカブル)では、2019年の終わりに、今日から3日連続でこれらのサービスについて紹介する。サービスの説明にとどまらず、各社代表に取材を行い、立ち上げの思いや特徴についても記事にしようと思う。
第一弾として紹介するのは、まさに今年になって正式リリースした「ADDress」。多拠点生活やアドレスホッパーといった文脈で、何度もメディアに取り上げられている注目のco-living(コリビング)サービスだ。
まずはサービスをざっくり説明
ADDressは、定額月4万円(税別)で全国28箇所の家に住み放題となる、サブスクリプション型の多拠点居住シェアサービス。この“4万円”の中には、電気代やガス料金、水道代、ネット回線料金が含まれており、敷金・礼金・保証金などの初期費用も必要ない。
登録されている拠点は、北海道札幌市や神奈川県の鎌倉、静岡県南伊豆、鳥取、徳島、福岡……と全国各所に展開されており、都内にも2ヶ所の拠点が用意されている。これら各拠点の個室を自由に利用することができるのだ。
利用には事前予約が必要。会員専用サイトから、空き状況やアクセス方法を確認して予約する。なお、予約は3ヶ月先まで可能になっている。
一点注意が必要なのは、同じ個室を連続で予約できるのは最長7日間だということ。週末利用が目的の方ならまだしも、このサービスだけで移動しながら生活をしようと考える“真のアドレスホッパー”にとっては厳しい条件かもしれない。
この制限を設けた理由として、株式会社アドレス代表の佐別当(さべっとう)氏は次のように話している。
全国各地の拠点にはそれぞれにいい所があります。しかし、立地的な理由で人気になる物件なども出てくるんです。私たちは、できるだけいろんな人にいろんな場所を体験してもらいたいという思いで、日数制限を入れることにしました。もちろんリピートは可能なので、再度気に入った家を利用することはできます。
またADDressでは、4万円の料金内で住民登録が可能な専用のドミトリーベッドを契約することができるようになっている。
最近では、ドミトリーベッドを“ホーム”として確保し住民票も置きつつ、さまざまな地方の拠点を転々とするユーザーも増えてきているという。
作っているのは“家”ではなく“社会システム”
ADDress最大の特徴は「家守(やもり)」という管理者の存在だろう。
各物件には個性溢れる地域住人が管理者として担当に付き、地域との交流の機会やユニークなローカル体験、そのほか、暮らしているからこそわかる情報を提供してくれる。
僕たちは、ただいろんな場所に滞在できる家を作っているわけではありません。目指しているのは、トップダウンの管理型社会ではなく、分散型の共同体のような社会。家族のように接してくれる人がいたり、仕事があったり……そんな「自分が帰ってこられる居場所」のようなものを増やしていって欲しいんです。
地方では人口減少が問題となっている。とはいえ、人口を増やすことは一朝一夕でできるものではない。地方に移住・定住するというのもハードルが高い……。
しかし、地方に来た人がそこで仕事をしたり、子供がその地域の学校に通ったり、医者がそこで診察を行ったり、そういったことからであれば始められるかもしれない。
佐別当氏は、地域で生産活動をする人を増やしたい、と話す。そのためには地域コミュニティとの接続が必要不可欠であり、その役割を担っているのが「家守」なのだ。
僕たちは地域側の考え方をできる限り大事にしています。ホテルやマンションを作ったり、既存のゲストハウスに人が来たとしても、それによって地域が変わることはありません。
地域に住んでいる方に家守として管理していただいたり、シャッター街の店をリノベーションして無料で開放したり、町内会・商工会に入ったり……。そうやって地域との繋がりを作り出すことに力を注いでいます。そこが、他のサービスと違うところとして一番大きな点かもしれません。
実は20代の4人に1人は地域移住に関心が!なのに……
ここまでADDressのサービス内容についてお伝えしてきたが、そもそも代表の佐別当氏はなぜこのサービスを立ち上げたのだろうか。その背景は同氏の原体験にある。
佐別当氏は前職の株式会社ガイアックスに勤めているとき、昼間から鎌倉に行ったり、シェアオフィスを借りて仕事をしたりと、自由な働き方を実践していたという。
テクノロジーが生活に浸透してきて、働く場所も、仕事の選び方もここ数年で大きく変わってきたと思います。そんな中で、都内のオフィスに毎日出勤したり、都会だけで生活するということに対して違和感を感じるようになったんです。そして、同じような違和感を持つ人は今後もっと増えていくだろうなと思っていました。
国土交通省の「平成29年度国土交通白書」によると、三大都市圏に住む20代の4人に1人が、地方移住に関心があると答えた。また、2011年3月11日の震災以降、IターンやUターン、地域おこし協力隊などの位置付けで、明確な意思を持ち、地方に行きたいと考える人も増えてきているという。
一方で、エリアによっては空き家はあるけど住まいがない、という状態になっている場所もある。一軒家や古民家など、家族世帯が移住するような大きな物件はあるが、単身者が一人で暮らすような家はほとんどない。
つまり、地方が抱える課題と、都心に住む人が持つ地方移住の需要に対して、それらを繋ぐものがなかったのだ。
ここまでお伝えすればADDressが生まれた理由が見えてくるかと思うが、佐別当氏がこの問題点に気づけたのは偶然ではない。
同氏は4年前に一般社団法人シェアリングエコノミー協会という団体を立ち上げ、日本全国でシェアリングサービスの普及啓発をする活動を行ってきた。また個人でも、自宅をシェアハウスにしたり、Airbnbで民泊を始めてみたりと、まさにシェアリングエコノミーの文化を広げる側の役割を担ってきた。
そんな中で、地方が抱える空き家問題、そして人口減少の問題を、シェアサービスを活用して解決することはできないかと考えていたのだ。
人口が減り、空き家が増え、企業が撤退していく地方において、その地域に集約されるシェアサービスは成り立ちません。一方で、クラウドソーシングやクラウドファンディングといった“外”と地域を繋げるサービスは伸びている傾向にありました。地方では空き家が増えていて、都心では地方に行きたい人が増えているのであれば、それを繋げる多拠点サービスというのはロジック上成り立つはずだと思ったんです。
都心にも住み地方にも住む、という新しいライフスタイル
移動しながら生活する人たちをベースにして作り上げる分散型の社会システム。そのマッチングハブとしての役割を担うADDressは、この冬から新しい施策に取り組む。
これまでADDressでは、定額4万円で住み放題になるサービスを展開してきた。しかし、最長7日間という宿泊制限によって、ユーザーは“移動”を余儀なくされる。これは、移住に関心はあるが実行に移せない人たち、つまり従来のデュアラーではない2、30代の人たちにとっては、なかなか痛い出費になるということだ。
そこで、株式会社アドレスはライフプラットフォーム構築のため、JR東日本スタートアップ、ANAホールディングス、IDOMと提携。飛行機・電車・車の移動コストを大幅に下げることで「住まい+移動社会」の実現を目指している。
ANAとの連携では、会員料金に月額2〜3万円を追加することで、全国の指定路線・便に4回乗ることができるサービスの実証実験を2020年1月より開始。
今回の実証実験だけではなく、今後MaaSも間違いなく広がっていくはずなので、今よりももっと移動コストが安くなる。そうなれば、「都心か地方か」という選択ではなく、「都心にも暮らすし地方にも暮らす」という考え方になり、地方の関係人口はもっと多くなるんじゃないかと思います。
こうなればもはや、地方は「週末のリラックスできる場所」ではなく、「もうひとつの地元」のような感覚になるのかもしれない。そして、その世界観こそが佐別当氏が望む社会の姿なのだ。
最後に、佐別当氏にADDressの魅力について聞いてみたら、「それよりも、」と地方の魅力を語ってくれた。
都会は都会の暮らしやすさがありますが、地方って面白いんですよね。正直、僕は東京にいるより地方にいるほうが楽しいですし。
朝は海でサーフィンして、昼から仕事して、夜は地元の人とか家守さんとか他のユーザーとご飯食べて。ふと周りを見ると田園風景があったり、海があったり。朝日とか夜の雨とか……。あと、地方にはなんて言うか、温かみがあると思うんですよね。東京での家と会社の往復生活では感じられない豊かさを感じることができるんです。
それに、都会では埋もれてしまっている才能も、地方ではめちゃくちゃ貴重なものだったりします。実際、カメラマンやプログラマーがADDressを通じて地方で仕事を受注していたり。
とにかく、テクノロジーの発達によってそういう自由なライフスタイルが、手に入れようと思えば手に入れられる時代になってきました。ADDressは、そんな新しいライフスタイルを育むプラットフォームにしたいと思っています。
定額制住み放題サービス「ADDress」は、都心に住む人のニーズと、地方が抱える課題をうまく繋げたサービスだ。カジュアルに地方に住み、カジュアルに次の家に移動する。そんな新しいライフスタイルを実現しようとしている。
Netflixで次に見る映画を探すように、ADDressで次の家を探すような日も近いかもしれない。
ADDress
(文・栄藤徹平)