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Start Up 禁煙治療にもITを。ヘルスケアベンチャーCureAppが再創造する医療とは

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禁煙治療にもITを。ヘルスケアベンチャーCureAppが再創造する医療とは

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度重なる値上げや、規制の厳格化、あるいは健康改善を理由に、タバコをやめようと考えている喫煙者は少なくないだろう。

しかし、最終手段とも言える医療の禁煙外来に通っても、失敗してしまう人は後を絶たない。

今回取材を行う株式会社CureAppは、こういった医療の課題を「治療用アプリ」によって解決しようとしているヘルスケアベンチャーだ。ニコチン依存症や生活習慣病といった疾患領域において治療効果を出すアプリを研究・開発しており、「医薬品」「医療機器」に次ぐ第三の治療法とするべく日本初となる治療用アプリの医療機器承認、保険適用を目指している。

今回は同社COOの宮田尚氏にインタビューを行い、治療用アプリが医療にもたらす進化について話を聞いてきた。

禁煙外来が抱える2つの課題


ーー禁煙に取り組む方法として、医療の禁煙外来があると思いますが、その成功率は高いとは言えないようです。御社が考える現在の禁煙治療の課題について伺えますか?


宮田:禁煙外来と呼ばれている医療の禁煙支援プログラムには、2つの課題があると思います。

1つ目は、禁煙外来では身体的依存を抑えるための補助薬はありますが、心理的依存に対して介入することが難しいという点です。

例えば、喫煙者は「ご飯を食べたあとはタバコを吸う」というように習慣や癖を持っていることがよくあります。いくら薬を服用しても、患者さんが持つ考えや行動が適切でなければ、長期的な治療改善の継続が望めません。

つまり、本質的な治療には患者さんの「行動変容」が必要になるのです。

ーー確かに依存症の治療法として、認知行動療法というものもありますよね?

宮田:はい、「行動変容」の重要性は数十年前から周知されていました。要約すれば、患者さんとの信頼関係を作り、「なぜ悪い習慣を持っているのか」という行動とその背景にある考え方を伺って、それに応じたアドバイスを行い、正しい行動を定着させるというものです。

しかし、こういった治療法はスキルも時間も必要で、実際には運用が難しいというのが実状です。

ーー医療従事者が対応するにはリソース的にも限界がある、と。

宮田:そして2つ目の課題は、「治療空白」です。仮に上記のような医療の専門家によるヒアリングやアドバイスができていたとしても、それができるのは病院にいる時だけ。つまり次の来院までの間は、自身で頑張ってもらうしかありません。

しかし患者側は医療についての専門知識があるわけではないので、実は適切な行動ができていなかったり誘惑に負けてしまうというケースが多く、その治療空白の期間に禁煙を断念してしまうケースが多いんです。

ーー禁煙治療には、患者の行動変容を促し、治療空白をできる限りなくす必要があるということですね。

三方よしの治療用アプリ

ーーそういった現状の医療における課題を解決するためのソリューションが「治療用アプリ」ということでしょうか?

宮田:そうです。弊社が開発を行っている「ニコチン依存症治療アプリ」は、患者さんにアプリをダウンロードしてもらい、日々の治療経過を入力していただきます。これに対して、データに基づいて判断するアルゴリズムを組み込んだシステムが、患者さんの状態や個性に合わせたアドバイスや、治療のガイダンスを提供。従来、人間が行っていた「行動変容」を促すための行動療法を、アプリ内のシステムに行ってもらうんです。

また、スマートフォンという多くの方が所持しているデバイスを使用することで、治療空白期間でも適切な医学のエビデンスに則ったフォローができます。

ーーでは、従来の治療も残しつつ、治療用アプリも併用するということですか?

宮田:はい、アプリを使用した治療法を、既存の治療法に組み入れることで、より効果の高い治療になるのではないかと考えています。

最近だと、テクノロジーの進化に伴い、ロボットや遠隔手術などが出てきましたが、こういった最先端の医療機器は費用もとても高く、扱う技術も必要になります。一方、治療用アプリは、日本全国どのドクターでも、アプリを提供することで最先端で最高水準の医療を提供することができる。これも治療用アプリの優れている点だと思います。

ーー患者も、ドクターもが恩恵を受けることができるサービスなんですね。

宮田:一方で、社会的な貢献、という観点もあります。例えば、医療費の適正化。

今、医薬品をひとつ開発して提供するまでに、だいたい1,500〜2,000億円かかると言われています。こういった費用は、患者さんに提供する薬価にも影響して、国の医療費としても患者さんの自己負担としても高い負担となってしまいます。

治療用アプリであれば、数十億円で開発することができるため、医薬品に比べて金額を抑えた形で、優れた治療を提供することができます。

ちなみにアメリカではすでに市販されている治療用アプリがあるんですが、その治療効果は「医薬品」と比較して同程度、もしくは少し上回っているほどです。

ーー高い治療効果があるものを、リーズナブルな価格で提供することができる、ということですね。

「医療」「開発」「ビジネス」の融合

ーー日本において「治療用アプリ」というのは新しい考え方だと思いますが、ここまでに苦労したことも多かったのではないでしょうか?

宮田:そうですね……。アプリで治療効果を出すという概念は、今でこそ新しい医療として認知されてきたと思いますが、私が入社した3年半前ごろは「何言ってんの?」という感じでした。

ですので、メンバー集めにかなり苦労しましたね。ドクターの考え方、薬事や臨床開発、規制当局の考え方などを理解している人、そしてそれをアプリという新しい手法で実現させていくことに挑戦してくれる人...…つまり既存の医療の世界にいる人は、「アプリによる医療」の世界になかなか飛び込んできてくれません。医療という特殊、かつエンジニアリングのイメージが薄い業界にチャレンジするエンジニアも多くありませんでした。

努力を重ねて結果的には医療の専門家と開発の専門家、そしてビジネスの専門家が集まったことは、他の企業との差別化ポイントであり、こうしたメンバーを揃えないとここまで到達できなかったという事実は、高い参入障壁の要因でもあると思っています。

ーーなるほど。宮田さんは戦略コンサルティングファームの出身ですよね?

宮田:はい、医療系のプロジェクトに多くアサインされていたので、そこで医療業界の独特の規制や考え方を知りました。

今はそういった経験を生かしながら、主にビジネスサイドを担っています。「医療」「開発」「ビジネス」という3者が連携して同じ目標に向かっていけるカルチャー作りは大きなテーマであり、今後ももっと融合を促すことができればと思っています。

ーーでは最後に、宮田さんが作りたい医療の世界について伺えますか?

宮田:医療の現場で、医者と患者の対話の中に治療用アプリが自然と組み込まれているような未来を作りたいですね。

ドクターが自信を持って処方し、患者さんも自然に受け入れてもらえるような、新しい治療の選択肢を作っていきたいと思います。

宮田尚(みやた・ひさし)
京都大学法学部卒、(旧)司法試験合格。国内VCを経て戦略コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニー参画。医薬・ヘルスケアを中心に多数プロジェクトに従事。医薬品のR&D〜マーケティング・セールスまで業界構造やバリューチェーンに広く知見を取得。CEIBSの同期生の佐竹の事業ビジョンに共感し、2016年10月より現職。

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