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Start Up MRベンチャーのティフォンが創るアトラクション『CORRIDOR(コリドール )』の世界観と技術

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MRベンチャーのティフォンが創るアトラクション『CORRIDOR(コリドール )』の世界観と技術

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美しくも恐ろしい廃墟と化した洋館、コリドール 。赤子の泣き声が不気味に鳴り響くその洋館に一歩足を踏み入れると、地獄に引きずり込もうと亡者たちが手を伸ばしてくるーー。

もちろんこれは現実の世界ではなく、『Magic-Reality: Corridor(以下、CORRIDOR)』というウォークスルー型VRアトラクション内の仮想世界だ。しかし、VRゴーグルを装着すると、まるで本当にその世界にいるような感覚に陥る。

そんな次世代ホラーアトラクションを提供しているのは、MR体験施設「TYFFONIUM(ティフォニウム)」を展開するティフォン株式会社。

今回のインタビューでは、同社一推しのVRアトラクション『CORRIDOR』にフォーカスし、代表の深澤研氏のアーティストとしての一面と、そこで使われている技術について深掘りしていく。

インタビューの前に、まずは……

今回の取材を行うにあたって、『CORRIDOR』を体験しないわけにはいかない。たとえ私が極度の怖がりだとしても、だ。

そんなわけで、渋谷にある「TYFFONIUM SHIBUYA」で実際にアトラクションを体験してきた。

結論からお伝えすると、私はゴール手前でリタイアしてしまった。これがその時の様子だ。

色々と言い訳はあるが、端的に、怖すぎた。VRコンテンツのひとつにすぎないだろうと、たかをくくっていたのだ。しかしそれが浅はかな考えであるということは、VRゴーグルとヘッドフォンを装着した瞬間に思い知らされた。

目を開けると(正確にはゴーグルを装着すると)、私は屋敷の中の薄暗い廊下に立っていた。それが仮想世界であると頭では理解していても、映像の美しさや、それにリンクしたリアルな音声によって、否応無しに没入させられる。

また、ゴーグルで目を覆い、VRの映像を見ているにも関わらず、自分の体や手に持つランタンを見ることができるのだ。それによって、さらに「自分はこの世界に存在しているのだ」という感覚が強くなる。

多くの説明を受けずに、不気味な洋館に送り込まれた私は、亡者たちが徘徊する“地獄”へと足を進めることになるのだが……。

この先の出来事については、ぜひ読者のみなさんが自分たちの目で、いや身体で、体験してきていただきたい。

「洋館」が「地獄」になるまでの道のり

ーー別のインタビューで、「ホラーアトラクションへの思い」の原点が、幼い頃に体験したディズニーランドの「ホーンテッドマンション」だと話していましたよね。そこから、この『CORRIDOR』ができるまでの流れについて教えてください。

深澤:そうですね……「ホーンテッドマンション」に影響を受けていたというのもあってか、幼い頃から「洋館」が好きだったんです。理由は明確にはわかりませんが、物心ついたときから洋風の建物に惹かれるところがありました。

なので、アトラクションを作るにあたって、まずは「洋館」を舞台にすることは決めていました。

ーー最初からVR(Virtual Reality)を活用する予定だったんですか?

深澤:いえ、最初に思い描いていたのは実際の洋館の内装を作りこんで、それをデジタルの表現で変化させていくアトラクションでした。ただ、作るにしても、リアルのお化け屋敷ではできないようなものを作りたかったんです。エッシャーの絵のように、現実世界ではありえない構造だったり、空間全体が変形していくような……。

VR、というよりもMR(Mixed Reality)が、そういった私のイメージを実現するために最適な技術だったんです。

ーー確かに、アトラクションの中で空間的に「洋館」が「体内」に変わっていくという演出がありましたが、あれは現実世界ではありえないですよね。それにしても、なぜあのような演出に……?

深澤:あれは、「アバドン」という悪魔の体内という設定です。私は神話や聖書などに出てくる怪物や悪魔が子供の頃から好きなので、よくテーマに取り入れます。アバドンは黙示録に登場する悪魔で一説ではその体内自体が地獄だといわれているのですが、それが面白いと思って、洋館が地獄と繋がることで怪物の体内に変化していくという設定を考えました。

あとは、当時住んでいたマンションの廊下が、映画『シャイニング』に出てくる廊下によく似てたんですよね。映画の原作でも、屋敷自体が邪悪な意思を持っているような描写があるんですが、その辺りからもインスピレーションを受けていました。

ーーそういったいくつかの要素が結びついて、『CORRIDOR』の構想が出来上がった、と。

深澤:そうですね。ただ、私が作りたかったのは、怖さだけを追い求めたコンテンツではなく、恐ろしさの中に“美しさ”や“切なさ”があるような、複合的なものでした。

なので、『CORRIDOR』では恐ろしい雰囲気の中にも美しさがあるような美術や音楽を心がけ、また「なぜ屋敷が怪物に変化するのか」という背景もそうした要素を意識して考えました。

ーーどのような背景があるんですか?

深澤:『CORRIDOR』は、屋敷に暮らしていた夫婦の物語です。身篭った赤子が死んでしまい、気が狂ってしまった妻は自殺をしてしまいます。かつてのカトリックの世界では自殺すると地獄に行くと考えられていたのですが、この物語世界でもその設定で妻は地獄に落ちてしまいます。夫は地獄から妻を救い出すため、魔術の研究に取り組み、屋敷と地獄を繋げてしまうという内容です。

ーーそんなストーリーがあったんですか!? 実際に体験しましたが、全然わかりませんでした……。

深澤:あまり説明せずに、手がかりをちりばめることで体験の中で想像してもらうようにしているので、ストーリーを完璧に理解する人はかなり少ないと思います。

ただ、その過程が没入感を高める要素になり得ると考えています。一連のストーリーをわかりやすく伝えてしまうと、それをなぞっているような体験になってしまいますからね。

怖さを最大化するためにMR技術をどう活用するか

ーー使われている技術についてもお話を伺いたいと思います。先ほど、使われている技術が“VR”ではなく“MR”だとおっしゃっていましたよね?

深澤:VR、AR(Augmented Reality)、そしてMRは、それぞれ微妙に定義が違う技術ですが、明確に線引きされているわけではありません。

簡単にいうと、VRは仮想世界に没入する技術、ARは現実に仮想のオブジェクトなどを追加する技術、そしてMRは現実世界と仮想世界をミックスさせる技術のことを言います。今は別々の技術として語られることが多いですが、そのうち1つのMRデバイスでこれら全てが包含されるようになると思います。現実と仮想のミックス具合で表現でき、仮想100%ならVR、20%ならARというイメージです。

MR技術には大きく2つの方式があって、ひとつはMicrosoftが提供している「Hololens」のように、透明なレンズを通して現実世界を見せ、そこに仮想世界を重ねる「オプティカルシースルー」。

そしてもうひとつは、ディスプレイで目を覆い、そこに外部カメラで撮影した現実世界を投影する「ビデオシースルー」というもの。

現状、前者ではCGの表示領域が狭く没入体験を実現することができないため、『CORRIDOR』では後者を採用しました。

ーー見えている自分の体は、カメラで撮影した映像だったんですね。他に『CORRIDOR』で使われているMR技術で、こだわっている点はありますか?

深澤:「空間を移動する方法」はこだわりましたね。

私たちは当初“HTC Vive”というヘッドセットを使用しており、「Lighthouse」というトラッキングシステムで部屋の中を歩き回ることができるルームスケールVRを実現していました。

ただ、その頃はメーカー推奨では最大4m×3mの範囲ということだったのですが、『CORRIDOR』の移動範囲は8mx4mという、他に例のない広さだったんです。また、その中を何周も歩き回り、現実には同じ場所であっても、全く違う空間が次々と現れてくるような特殊な作りを一から考えました。

それによって限られた空間の中でもそれを感じさせない広大なフィールドを歩いている感覚を実現しています。

ーー位置の特定でいうと、アトラクションを体験しているとき、クリーチャーが私の位置をわかって向かってくるように感じました。

深澤:そこも拘ったポイントです。仮想世界に没入させるためには、その世界に関与する体験をしてもらうことが大事になってきます。なので、ただ見ているだけではなく、その世界のクリーチャーや虫などと、ランタンを使ってインタラクションができるようにしました。

ーーでも武器を持って攻撃したりすることはできないんですよね……。

深澤:ユーザーに銃を持たせて、ゾンビを打つというようなVRコンテンツは多くありますが、それだと「ゲームをプレイしているような体験」になってしまいます。

それでも面白いものは作れると思いますが、ここでは「恐怖」とその世界への「没入感」を優先して演出を考えました。もし本当にホラーの世界に自分が入り込んだとしたら、急に銃を持って戦い出したりしないと思うんですよね。

『CORRIDOR』では、訳もわからず異世界に来てしまったという「恐怖」を演出するために、あえてランタンで照らすだけしかできない、戦うことはできず逃げることしかできない、という設定にしました。

また、「恐怖」の与え方でも、ただ脅かすのではなく、体験者の中に違和感を生み、それが増大して恐怖に変化していくような過程を重要視しています。

消費されるコンテンツではなく、記憶に残る体験を


ーー今後、アトラクションはどのようなアップデートをしていく予定ですか?

深澤:現状のコンテンツでいうと、解像度の高いリッチなグラフィックにしていくというのはもちろんですが、ソフトウェアの部分だけではなく、風が吹いたり、匂いがしたり……そういった4D要素も取り入れていきたいと思っています。

ちなみに、11月22日に「AR×スイーツ」をテーマにした「ティフォニウム ・カフェ」を渋谷パルコにオープンするんですが、これは五感の中でもアトラクションに追加しにくい「味覚」にフォーカスしたものです。

ーー中長期的な目線だといかがですか。

深澤:そうですね……店舗の中だけではなく、外にも体験を作っていきたいと思っています。MRアトラクション施設「TYFFONIUM」で体験できる世界観を、スマートフォンやARグラスなどのデバイスでも楽しめるようにしたいですね。

その上で、外での体験と店舗での体験が連携しているような仕組みを作りたいと考えています。例えば『CORRIDOR』なら、自分の家でもクリーチャーが出てきたり、家そのものが地獄に変化したりして、そこでミッションをクリアすると、店舗に来たときの体験が変わるとか。

ーー自分の家が地獄に……(笑)。

深澤:『CORRIDOR』で考えると怖いですけどね(笑)。

私たちが今後作りたいと思っているのは、「施設内で完結しているアトラクション」だけではなく、家や街中でも楽しめて、施設に行けばよりリッチな体験ができるという、一連の世界観です。言ってみれば、もうひとつ別の世界のレイヤーを作りたいと思っています。

ただ消費されるアトラクションではなく、思い出や原体験になるような強く記憶に残る体験にしていきたいですね。

(文・栄藤徹平)

深澤研(ふかざわ・けん)
外資系メーカーにてエンジニアとして勤務後、画家·映像作家として映画祭での上映や、パリ市バルザック博物館での絵画個展などを行い、2011年 ティフォン株式会社を設立。企画·開発したアプリは5000万DL以上を記録。ディズニーアクセラレータに採択されたことを機に米国法人Tyffon Inc.を設立。XRコンテンツの企画·開発の他、MRアトラクション体験施設「TYFFONIUM」(ティフォニウム)の運営を行う。

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