そんな地球全体が持つ大きな問題を解決するべく事業を展開するスタートアップがある。株式会社バイオームだ。同社は、地球の生態系を守るため、そして人々にいきものと触れ合う楽しさや、多様な命の価値を実感する機会を提供するため、いきものコレクションアプリ「Biome(バイオーム)」を開発している。
今回は、同社代表の藤木庄五郎氏がインタビューに応じてくれた。
生態系保全で利益を出す!「Biome」立ち上げの原体験とは…
ーーまずは、「Biome」がどのようなアプリか伺えますでしょうか。
藤木:いきものコレクションアプリ「Biome」は、あらゆるいきものを図鑑にコレクションし、新しいいきものを見つけるたびに心が躍る、そんな体験を提供するアプリです。
「Biome」には、生物の名前判定AI技術を搭載しており、撮影場所や時期、画像に写ったいきものの形状などをもとに、日本国内のほぼ全種の動植物(約70,000種)のデータの中から、確度の高い種の候補を瞬時に表示することができます。
また、いきものの位置を知ることができる「マップ」、いきものの情報を共有する「SNS」、いきものをみんなで見つけるイベント機能「クエスト」といった様々な機能が、現実世界のいきものをもっと身近に感じる手助けをしてくれるんです。
ーー「Biome」を作ろうと思った背景について教えてください。
藤木:そもそも私が環境問題に関心を持つようになったのは、小学生の頃に読んだ遠山柾雄さんの著書『世界の砂漠を緑に』がきっかけです。
この本には、生涯をかけて中国の砂漠で植林活動をした研究者の話が書かれているのですが、当時この本を読んで感銘を受けたのを覚えています。自分も、地球にある大きな問題に対して全力で立ち向かえる人間になりたい、と考えるようになりました。
中学生になり、私は外来生物の問題をきっかけに、生態系の素晴らしさと、危うさを感じるようになりました。地球の宝物ともいえる“生態系”を人間が壊していることを知り、これを守ることが自分の使命だと考えるようになったんです。
大学では、熱帯の生態系保全に取り組む研究室に入り、約6年間、生態系について研究をしていました。中でも、ボルネオ島のジャングルで行った2年間の現地調査は大きな原体験になっていますね。
生態系が破壊される原因、その多くはお金儲けです。しかし、生態系は保全されることで、長い目で見れば人類の利益になると思うんです。
だから私は、生態系を守ることが直接利益に繋がる仕組みを作ることが大切だと考えるようになりました。
ーーマネタイズはどのようにしているのですか?
藤木:研究機関と協力して行う市民参加型の生物調査や、収集した生物情報の分析、環境教育活動、生物多様性の可視化による自治体への事業提案など、様々な業界からお声がけいただいています。
生物という新しい領域で、環境ビジネスのためのデータプラットフォーマーとしてビジネスを展開しているんです。
ーー画像による生物の同定(生物の分類上の所属や種名を決定すること)は、かなり難しいことだと思うのですが、どのようにして実現させているんですか。
藤木:弊社の開発の基本思想は、画像データのみを用いた生物の同定の精度には限界があるという考えに基づいているんです。
そのため画像だけに依存させずに、画像に付随するメタ情報(位置情報、撮影日時、焦点距離など)を学習させることで、生物の名前判定精度を向上させる仕組みの構築を目指しています。
それにより画像情報を用いた最新のディープラーニング技術を取り入れつつ、画像の位置情報と生物分布データベースを紐づけることで、撮影場所に応じた種組成の特異性を組み込むことが可能となりました。
まだ開発途中ではあるものの、現在では動物界と植物界併せて国内に生息する約70,000種類の生物種に対応しています。
ーー最後に、今後の展望について教えてください。
藤木:「Biome」のゲーミフィケーションをさらに向上させるとともに、子供でも簡単にいきもののことを知ることができるよう、ツール性、操作性を向上させていく予定です。
まずは、日本国内においてユーザー数を拡大させ、より多くの方に楽しんでもらいつつ、近いうちに「Biome」の海外版をリリースして、世界中の生物を取り扱っていきたいですね。
世界中の生物の情報をビッグデータ化して、環境ビジネスのプラットフォームを構築し、生物多様性の保全が人々の利益につながる社会をつくることを目指しています。
藤木庄五郎(ふじき・しょうごろう)
ボルネオ島にて2年以上キャンプ生活をしながら、衛星画像を用いた生物多様性可視化技術を開発。2017年3月京都大学大学院博士号(農学)取得、同年5月(株)バイオーム設立、CEOに就任。生物多様性の保全が人々の利益につながる社会をつくることを目指し、世界中の生物の情報をビッグデータ化する事業に取り組む。