重力レンズを用いてこれほど遠くの天体を観測したのは初めてのことだという。
まず、銀河団の質量をもとめ、ここから周辺を通る光の曲がる角度を計算することで重力レンズによる影響が算出できるが、観測にはさらなる工夫を要したようだ。
・銀河団のX線を減光
これまでも銀河団を利用した拡大鏡のアイデアはあったが、銀河団自体が大量のX線を放出するため背後の天体の放つ光と見分けがつかず、観測がむつかしかった。MITの研究チームは、X線を減光する手法を思いつき、世界で最も強力なX線宇宙望遠鏡の1つであるNASAのチャンドラX線観測衛星でテストした。
地球から57億光年離れたところにあるフェニックス銀河団を、1ケ月以上にわたって継続的に撮影し、観測結果を分析。併せてハッブル宇宙望遠鏡およびチリのマゼラン望遠鏡によって撮影された画像を使用して、フェニックス銀河団の光の特徴をモデル化した。これにより、銀河団からのX線放射を正確に計算して観測データから差し引くことができたという。
・時間をさかのぼっての観測が可能
これまで、チャンドラX線観測衛星によりこの距離で観測できる天体はごくわずかだった。重力レンズを利用することで、これまでの10%未満の時間で観測を実現した。観測された青いシミは、宇宙最初の銀河に似た銀河で、宇宙がおよそ44億歳だった94億年前のものだった。この手法を使用することで、遠方の銀河にズームインして、さまざまな部分の年齢を調べることができるという。
重力レンズによる観測で時間をさかのぼり、初期段階の銀河における星の形成を調べることが可能となり、さまざまな天文学的な新発見が生まれそうだ。
参照元:Astronomers use giant galaxy cluster as X-ray magnifying lens/MIT News