そこで今回Techable(テッカブル)では、一次産業のDtoCプラットフォーム「ukka」を運営する株式会社ukkaの代表・小林俊仁氏に取材を行い、一次産業の実状について話を聞いてきた。
(なお、Techableでは「ukka」の前身である「OWNERS(オーナーズ)」がローンチされた2015年にも取材を行っている)
私たちが住む日本の一次産業は今、どのような課題に直面しているのか。そしてその問題は私たちにどのような影響を及ぼすのかーー。
既存の流通だけが本当に最適なのか
ーーまず最初に、9月にサービス内容を一新された「ukka」について、どのようなものか伺えますか?小林:「ukka」は、2015年12月から運営してきた一次産業のDtoCプラットフォーム「OWNERS(オーナーズ)」をリニューアルしたサービスです。簡単に言ってしまうと、農家さんや漁師さんがDtoCのようにファンを得て直販できる仕組みをつくっています。
基本的には、OWNERSのときにサービスの中核であった、農産物等の「予約注文」や「オーナー制度」を引き続き軸としています。注文する人は収穫や生産前から事前に予約をして、生産者とコミュニケーションを行い、生産者が「今が一番美味しい」と思うタイミングで送ってもらうんです。
リニューアルしてからは、ここに「都度販売」や「定期便」が加わりました。より柔軟な販売が可能になり、商品数もかなり増えましたね。
ukka では、ただ買うだけのECサイトと違って、生産者がどういう思いで農作物を育てていて、何にこだわっているのか、というストーリーを伝え、それを理解してくれる人に対して商品を届ける。そうやって生産者と消費者にコミュニケーションを生んで、ファンができてくる……。そんな新しい「流通の形」をつくりたいと思っています。
ーーなるほど、クラウドファンディングのような要素もありますね。そもそも小林さんはなぜ「既存の一次産業の流通」を変えようと思ったんですか?
小林:いくつか理由はありますが、ひとつは、日本の農産物流通が「均質化・大量生産」に偏りすぎているのではないか、という疑問を持っていたからです。
例えば、僕の実家は米農家なんですが、実家周辺で作られている米の出荷作業がどんな感じかっていうと、周辺にいる農家さんたちが収穫した米を軽トラで集荷場に持ってきて、施設の床にあいた穴に流し入れていくんです。自分が収穫した米は周りの農家の米と混ぜられて、収穫した米の重さ×米の単価が入金される、みたいな。
これは米だけに限らず、野菜・果物・畜産などでも同じようなことが起こっていて、「いかに均質化し、低コストで作り、流通させるか」が重要視されているんです。
ーー大量生産的な考え方ですね。
小林:一方で、日本が完全に大量生産型の儲かる農業を作れているかというとそういうわけでもないんです。低コストで均質な生産方法に振り切る場合、いかに広い面積で単一のものを作って効率を上げるかがキモになります。
一農家あたりの作付け面積を比較すると、ヨーロッパで数十ヘクタールほど。アメリカに至っては200ヘクタール近くあるところ、日本はというと、2,3ヘクタール程度。低コスト・大量生産で収益化する方向にも振り切れていないんです。
じゃあ逆に、規模が小さくてもこだわって質の高いものを作りたいという生産者さんの経営が成立しているかというと、こちらのほうこそどんどん生産者が減少している気がします。こちらはこだわりを理解してくれる人に売らないといけないので、いかに個別の販路を確保していくかがキモになりますが、均質化・大量生産に最適化された流通の上ではこちらも成立させることは難しいんです。
ーーこだわりの農作物を流通させるのは難しく、大量生産方式にも振り切れていない、と。
小林:そうですね。
昔、実家の米作りを手伝っているときに、この問題を垣間見るような経験がありました。実家は、基本的にはさっきお話ししたような方法で農協に卸していたんですけど、田んぼの端の一角だけ無農薬米を作っていたんです。
昔は直売所もなければネットもまだ普及していなかったので、そこの米は売らずに、自分たちで食べたり、周りの人にあげたりしていました。で、おばあちゃんがその米をよく自慢してたんですよね。
ーーこだわりを持ってつくったものが、流通の問題で消費者に届かないのは悲しいですね。
小林:そうなんです。でもネットが発達している今、“そっち”が欲しい人もいるんじゃないかって。少し値段が高いけど、安心安全で美味しいものが欲しいっていう人はいると思うんです。
それが僕の起業するにあたっての原体験でもあります。
日本の一次産業衰退は「輸入」と「大量生産」で解決できるか
ーー日本の一次産業が抱える課題、というと「高齢化」や「後継者不足」がよく取り上げられていますが、こういった問題について小林さんはどのようにお考えですか?小林:かなり深刻ですね。一次産業を支えているのって6,70代がメインなんですけど、そういう人たちがいよいよ引退を考え出していて、そのノウハウや技術を継いでくれる人もいない。本当に待った無しの状況だと思います。
ーーこういった問題が私たち消費者に与える影響はどのようなものなのでしょうか?
小林:生産が減った分輸入すればいいとか、機械化して大量に作ればいいとかって単純な話では無いんですよね。
食べるために必要な糧を安価に作ることと、美味しくて健康で楽しい食事をしたいというような個々の多様なニーズに対応したものを作ることは、両方成立させていかないといけないんです。
例えば、僕も平日は会社の近くのコンビニに行って昼ごはんとかを買いますけど、そういうときには当然「安く効率よく食べたい」と思っているわけですよ。でも土日も同じようにしたいかと言われると……違いますよね?
ーー確かに、少し高いお金を払ってもいいから美味しいものとか安全・安心なものを食べたいって思うときもありますね。
小林:一言に「食」っていってもいろんなニーズがあるんですよね。
このまま高齢化や後継者不足が進んで生産力を失うと、いつか急にその「美味しいもの」が世の中からなくなってしまう瞬間が来ると思います。そうすると、そもそもの選択肢がなくなってしまう。
海外からの輸入品を増やせばいいという考え方ももちろんあります。でもそれってどこまで良しとするかは考えないといけないと思うんです。日本の食料自給率は今カロリーベースで40%を切っています。自分たちの食べものを自分たちで作れなくなった国が本当に良いのかどうか。
ーー高齢化や後継者不足の解決方法が、「輸入」や「大量生産」だけになってしまうことに危機感を感じますね。
小林:ukkaのサービスを立ち上げた背景にはそういった思いもあるんです。
自分とは関係のない世界から、“第二のふるさと”に
ーーでは、小林さんは「後継者不足」の問題についてはどのような解決策があるとお考えですか?小林:一次産業が抱える人手不足の大きな要因は、「儲からないこと」だと思います。
実際に農家の方にukkaを紹介しに行ったりすると、息子さんが興味を持ってくれたりするんですよね。後を継ぐことに前向きじゃない理由は儲からないからであって、儲かるなら継ぎたい、という人は実は多いと思うんです。
これまではどれだけこだわって作っても、大量生産的な流通に乗っかってしまうとその思いが消費者に届くことはなかった。でも、ukkaを使えばそのストーリーと共に消費者に届けることができ、ファンを増やし、単価も上げていけるかもしれません。
また、ukkaで事前予約やオーナー制度で販売する場合、生産者に対してその売り上げを先にお支払いすることができるので、キャッシュフローもよくなります。
ーー流通の課題を解決することで、消費者が感じている「儲からない」という課題までも解決することができるんですね。では最後に、小林さんが「ukka」によって作りたい世界について教えてください。
小林:将来的には、「都会と田舎が分断されていない世界」を作りたいと思っています。
今って、都会にいる人は田舎の問題についてあまり知らないし、関心がない。まるで“違う世界”みたいに見られているんですよね。だからこそ、「一次産業の衰退」っていわれてもピンとこないんだと思うんです。でも、毎年買ってたあの美味いモモが食べられなくなる、と聞くと、結構自分事として認識できると思うんです。
ukkaによって作られたファンコミュニティから、交流が生まれて、田舎で起こっていることに関心を持ってもらう。なんなら現地に行ってもらって、徐々に第ニ第三のふるさとのように感じる場所を増やしてもらう。
そういう世界になれば、「食べる」の裏側に興味を持つ人が増えますし、一次産業はもはや衰退産業ではなくなると信じています。
(文・栄藤徹平)
小林俊仁(こばやし・としひと)
1977年生まれ、実家は元々三重県亀山市の米農家。 京都大学大学院情報学研究科在学中からゲーム開発に関わり、オンラインゲーム開発会社のテクニカルディレクター、取締役、海外子会社 CEO等を歴任。 2011年に株式会社Aimingの創業から参画し、 最高技術責任者として 2015年4月に東証マザーズに上場。 2017年9月に株式会社ukkaを創業し、代表取締役に就任。