今回は同社の取締役副社長の荒川氏に、antenna* がどのようにして生まれたのか、今後のどのような展開を考えているのか、そして荒川氏自身のビジネス哲学について、話を伺った。
antenna* 独自の世界観を創造する
――「antenna*」のサービスは上質なコンテンツを提供するキュレーションアプリとして有名ですが、そもそもどのような背景で立ち上げたのでしょうか。荒川氏:antenna* は、リサーチ会社であるマクロミルの新規事業として立ち上がりました。
当時、メーカーなどの広告宣伝部門の調査を複数実施していたのですが、認知されれば興味関心や意向が向上するであろう良い商品が、ユーザーへしっかり届いていないという課題が多く見受けられたんです。
スマートフォンの浸透に伴いユーザーのライフスタイルが大きく変化しており、この変化に合わせた情報の伝達が必要なことは明白でした。
一方で、2010年くらいからテレビや雑誌、ラジオなどよりもスマートフォンでのコンテンツ消費の需要が伸びてくることが、時系列の調査データからわかっていました。しかし、当時はスマホで提供されるメディアのコンテンツや、広告主のブランディングが行えるソリューションはまだまだ未開拓の領域だったんです。
このような背景から、今後間違いなく伸びるスマホ市場で、コンテンツやブランディングが行えるサービスを作ろうと考え、antenna* を立ち上げました。
――antenna* はよく独自の世界観を持ったメディアと表現されます。他のキュレーションメディアとは違う独自性をどのようにして追求したのでしょうか?
荒川氏:そもそも、日本ではライフスタイル系のソフトニュースが好まれる傾向があります。しかし、2012年から立て続けに立ち上がった他のメディアでは、経済やソフトニュースを取り扱うものがほとんどでした。
我々は、他のキュレーションアプリがメインで扱わない出版社やラジオ局などライフスタイル系のコンテンツを主軸に置くことで、独自の世界観を追求しました。
「antenna* らしさの追求」がサービス成長を支えた
――立ち上げのフェーズで苦労したことはありますか?荒川氏:立ち上げ当初はサービスの利用者拡大に合わせて、広告商品の設計に苦労しましたね。
antenna* は広告販売において「スマートフォンブランディングのプラットフォーム」として声高に商品をローンチしました。これまでの広告チャネルであるTVやラジオ、新聞などのマスからスマホにシフトしていくのに合わせて、ブランドの打ち出し方や見せ方をスマホに最適化していかなければならないと。
しかし、広告主にantenna* のサービスとしての世界観、広告としての世界観をなかなか伝えきれない。何となく理解はされるものの、antenna* の目指すところは伝わっていませんでした。「何言っているの、大変なことやっているね」とクライアントに言われることも多く……。
それもそのはずです。日本のデジタル広告市場においては、他広告サービスとCPCやCPMという指標で比較して出稿を決めます。デジタル広告効果を換算して、費用対効果を得られないと判断されれば、出稿先として選ばれません。
スマホにおけるブランディングで目指す世界観を伝えるにしても、デジタル広告業界における定番の指標でしか比較してもらえない。また、想像以上に運用刈り取り型の市場が大きい。ここをどう打開するかが苦労しましたね。
――どのようにして広告主側にCPCやCPMではなく、ブランディングや世界観が大事であると浸透させていったのでしょうか?
荒川氏:2015年の広告業界イベントでLEXUSの宣伝部長と対談させていただいたことが転機となりました。
そこで、「デザインを重視したantenna* のサービス画面でLEXUSのクールな記事を載せることで、中長期のユーザーとなりうる人とのコミュニケーションができる」と語っていただいたんです。
これによって、antenna* のスマホブランディングの活用によって企業のブランドイメージ向上に繋がるという認知が広まっていきました。
デジタル広告ビジネスにおける1クリックいくらという世界から、antenna* が一歩抜け出せるきっかけになったイベントだったと思います。
――なるほど。そのイベントがきっかけでantenna* の打ち出すスマホブランディングが広まっていったわけですね。現在月間650万ユーザーまで成長していますが、ユーザー数を伸ばす上で意識したことを教えて下さい。
荒川氏:最初は、芸能人によるTVCMを放映して、他のキュレーションアプリとは違うというのを感じてもらうような訴求を行いました。また、antenna* の世界観に合うイベントへの協賛や小規模のイベント企画など、オフライン施策を積極的に打ち、ユーザーと接することを意識しましたね。
長くユーザーに使ってもらい愛されるようなサービスにしていくこと、次の生活を豊かにするためにantenna* を使う。年齢や性別問わず、antenna* の世界観に共感するユーザーが集まるように工夫しました。
――antenna* の世界観に共感するユーザーを増やすために、コンテンツ作りにはどのようなこだわりを持っているんですか?
荒川氏:提携しているメディアからキュレーションしてきたコンテンツを、antenna* 上でどう表現するかを3つの観点から編成を考えています。
1つ目がantenna* が提案するTOKYO LIFEを体現するようなコンテンツの提供。2つ目は、ユーザー目線を意識した、大多数が興味関心を持つコンテンツの選定。そして3つ目がantenna*のキュレーターたちの感性に沿った独自の企画。
この3つを通して、antenna* らしさを感じてもらえるようなコンテンツ編成をしています。
なぜそれをやるのか。大義名分を大事にするべき
――荒川さんが、事業を伸ばす上で意識している心構えや仕事に対する取り組み方について教えて下さい。荒川氏:既に偉人の方々も言われていることなのですが、ビジネスにおいて必要な要素として、スキル・戦術・パッションの3つの要素があります。この中で、一番大切なのが「パッション」だと強く思います。
私自身、初めの頃は広告販売のグロスとネットの概念さえわからず、赤っ恥をかいた経験がありました。それでも、丁寧に教えてくれる方や、応援してくれる方がいたので、もがきながら折れずにやってこれたんです。
なぜ周りに助けてくれる方がいたのかと考えたとき、「この人は本気だ! 何か形にしてくれようとしている!」という強い想いが伝わっていたからではないかと思うんです。
知識やスキルはやっていくうちに後からでもついてきます。ですが、逆境に立たされ、何度も跳ね返され、何を言われても、何度でも立ち向かう。そんなパッションが相手を動かす力になっているんだと思います。
なので社内でも、未経験でもやってみたい。荒削りでも突き進みたい。このようなパッションのある人間と仕事をしたいと思っています。もし、失敗しそうになったら上司が引き戻せばいい。その環境が人の成長を早めます。
ですが、どれだけパッションがあっても、教える人がいないと意味がありません。上司や先輩がしっかりと教えて、双方で成長できる環境も大切だと思います。
――なるほど。それが今の副社長としての仕事でもパッションを重視していると。
荒川氏:そうですね。antenna* は対外的な企画の提案をよくいただくのですが、そこでもブランド規模やネームバリューをあまり意識はせず、何故それをやるのか、やるべきなのか。「大義名分」を大事にしています。
一緒にビジネスをするときは、誰とやるかも見ていますね。その人を信頼できるか、社員を巻き込んで突き進んでいけるかを常に見ています。
ある種、人の右脳に依存していますが、これだけデジタルが普及した中でも本質的に大事なことは昔から変わっていないと思います。
ソリューションドリブンな広告ブランディングを提供する
――最後に今後の展望について教えて下さい。荒川氏:antenna* の広告販売だけの会社で止まることなく、広告主のニーズに合わせて、またさまざまなプロジェクトに合わせて、最適なソリューションを提案できればと思っています。
広告主・メディアの事業課題に合わせて、デジタルだけでなくリアルも統合的に絡め、antenna* の持ち合わせているブランディングのナレッジを提供していくことを目指しています。例えば、提携メディアが持っているコンテンツという資産を、サイネージや交通広告といったリアルの場にアレンジして、スペースのブランディングを行うなど。
企業のブランディングはやることが多岐に渡ります。お客様の課題に沿って、antenna* に止まらず、グライダーアソシエイツが有するコンテンツや企画などを「Tokyo* Total Curation」と称し、これを活用してどうユーザーに最適な広告クリエイティブを作るかを中長期的に提案します。
社名にもあるように、グライダーで数多くのパートナーと大空を滑空したいと思います。
荒川徹(あらかわ・とおる)
早稲田大学大学院商学研究科修了。2007年株式会社マクロミル入社後は事業会社リサーチ営業、経営戦略北米事業担当・広報室長、セルフアンケートツールQuestant事業初代開発事業責任者を担当。2014年株式会社グライダーアソシエイツに入社。取締役副社長としてキュレーションアプリantenna* を中心としたグライダーアソシエイツ事業全体統括を行う。