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Start Up なぜ日本人の睡眠時間は短いのか? SleepTechベンチャーのニューロスペースが提示する解決策

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なぜ日本人の睡眠時間は短いのか? SleepTechベンチャーのニューロスペースが提示する解決策

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私たちにとって「睡眠」とは、なくてはならないものであり、ないがしろにしがちなものでもある。昨年の経済協力開発機構(OECD)のデータでも、日本の睡眠時間の短さは加盟国の中でトップになっている。

では、なぜ日本人の睡眠時間は短いのだろうか。そして、どうすればその問題は解決するのだろうか――。

今回はそんな疑問を、SleepTech(スリープテック)ベンチャーである株式会社ニューロスペース代表の小林孝徳氏にぶつけてみた。

睡眠を軽視する日本の文化と社会

――よく「日本人は睡眠時間が短い」と言われますが、これについて小林さんはどう思われますか?

小林氏:やはり睡眠を尊重しないような文化や社会になってしまっているな、と感じます。

おそらく多くの人にとって「睡眠時間」は、仕事や遊び、家庭などを優先した結果「余った時間」と考えられているんじゃないでしょうか。

――確かに、忙しくなってくると「削るなら睡眠時間」と考えてしまいがちです。なぜこういった考え方を多くの人が持ってしまっているんでしょう。

小林氏:いろんな考え方があると思いますが、大きく2つの観点があると考えています。

まず「個人」の観点でいうと、睡眠を正しく計測するツールがないという課題があります。体重であれば、体重計に乗れば1ヶ月前に比べて痩せたのか太ったのかがわかりますよね。でも睡眠というのは、「昨晩の睡眠がどうだったか」を知るすべがないので、自分の睡眠が良いのか悪いのかが判断できないんです。

それに、寝ている間のことは自分ではわからないので、その重要性を認識しづらいんだと思います。

――なるほど。「自分の睡眠」を知ることができないので、問題点もわからなければ対策を立てようとも思わない、と。

小林氏:そしてもうひとつは、「会社や組織」の観点です。

多くの会社では、睡眠は従業員がプライベートでやることなので、介入すべきことではないと考えています。

しかし実際には、仕事と睡眠はお互いに影響し合っているんです。どのように働いたかというのはその日の睡眠に影響しますし、睡眠の質が悪ければもちろん仕事に悪影響を及ぼします。

本来、表裏一体で分けることができないものなのに、会社が「睡眠は個人で管理するもの」と考えてしまっていることは、日本の睡眠課題のひとつだと思いますね。

――日本人の睡眠不足問題の一因は、従業員を雇用している会社側にもある、ということですね。

小林氏:もちろん、一人ひとりが睡眠の重要性を理解することも重要ですが、いくらそういう意識を持っていたとしても、残業が多い会社で働いていたら良い睡眠はとれませんからね。

問題解決に必要なのは「尊重」と「自立」

――御社の睡眠改善サービスは、まさに「会社や組織」に対して提供しているサービスということですよね?

小林氏:はい、組織内の睡眠課題の可視化から、従業員の睡眠習慣定着まで一気通貫でサポートしています。BtoBtoE(employee)のサービスですね。

睡眠改善のアプリと睡眠計測のデバイスを提供し、従業員の方々に睡眠を計測してもらい、最適な睡眠改善のソリューションをアプリを通して提供するというものです。

――そういったサービスを利用したいと思う企業は増えてきているんですか?

小林氏:徐々に増えてきています。プレゼンティズムを解消したいと考えている企業も多いんです。

――「プレゼンティズム」とは……?

小林氏:出勤しているのに、何らかの不調のせいでパフォーマンスが低下している状態のことです。良い睡眠をとらなければ集中力や決断力が低下して生産性が落ちてしまうんです。

昔は、時間をかければ利益が上がるし、従業員も評価される、という社会だったと思います。しかしIT化やグローバル化、多様化が進んだ今、そういう社会ではなくなってきている。「長時間労働」ではなく、「いかに生産性を高めるか」が重要視されてきているんです。

――なるほど、では従業員側はどうでしょう? ただ残業がなくなるだけでは、「じゃあ飲みに行こう!」となってしまう気がするんですが。

小林氏:そうですね、企業が睡眠を尊重するだけではダメで、個人が「自立」する必要があると思っています。

ここ数年「社畜」という言葉をよく耳にしますが、「働かされている」という感覚だと、それは「依存」なんですよね。そうではなくて、「会社に対してこういう価値を提供するから、自分はこういう生活をするんだ」というプロとしての自立心を持つことが重要だと思います。

――従業員が睡眠の重要性を感じ「自立」するには、やはり時間がかかるのでしょうか?

小林氏:いえ、従業員に関しては「意識」と「意思」さえあれば変われると思います。

そもそも多くの方が潜在的に睡眠に課題感を抱えているんです。ただ、先ほどお話ししたように課題が明確なものにならず、解決策が見つからないから重要視していないだけだと思います。

私たちのプログラムでは、睡眠の悩みを明確にして可視化し、最適なソリューションを提供しています。実際、それを実行すると悩みが解決されるんです。そして、その結果としていろんな良い影響を及ぼす。そうやって改善した体験があれば、「じゃあ次は〜」と良いサイクルが生まれる。

――そしてそれを邪魔しないように、会社としても尊重するわけですね。

人はなぜ眠るのか

――テクノロジーによって意識と環境を変え、そして文化を変えていく。そうやって「睡眠」の考え方が変わってくると、どのような社会になるのでしょうか。

小林氏:自分の人生の目的に対して、睡眠をデザインしていけるような世界になっていくと思います。

例えば、クリエイターの方がパフォーマンスを発揮するためにどのような睡眠を取ればいいのか、アスリートが昼間の練習を体に覚えさせるためにどういう睡眠を取ればいいのか……と。

――まさに御社が提唱する「睡眠は技術」ということですね。

小林氏:ただ、睡眠はまだまだ解明されていないことが多いんです。そもそも厳密なことをいうと「人間はなぜ眠るのか」ということも実は解明されていません。

――そうなんですか? ここまでのお話はなんだったんですか!

小林氏:もちろん、疲労の回復や心の整理、記憶の定着、免疫力向上など、睡眠が重要な役割を果たしていることはわかっていますし、逆に睡眠不足が健康状態に及ぼす影響についてもわかってきています。

ただ、「なぜ人間は寝るようにできているのか」とか「どういう神経回路が活発になって眠りのスイッチが入るのか」などはわかっていないんです。

ニューロスペースはサイエンスベンチャーなので、そういった研究分野の進化にも貢献したいと思っています。

――睡眠についての研究、ですか。

小林氏:世の中には睡眠について研究している人が多くいますが、「人間の睡眠データ」をたくさん持っている研究機関っていないんですよ。基礎研究分野のネズミの睡眠データはありますが……。

私たちはサービスを通してデータを取り、世の中で一番「人間の睡眠データ」を保有して価値を創造していける会社になろうと考えています。

そして睡眠の謎を解明したいですね。

(文・栄藤徹平)

小林孝徳(こばやし・たかのり)
自身の睡眠障害の経験をきっかけに、この社会問題を解決すべく2013年にニューロスペースを設立。
健康経営や働き方改革を推進する70社以上の企業と1万人以上のビジネスパーソンの睡眠改善をサポート。同時にコアテクノロジーを基にパートナー企業と協業しSleepTechビジネスを創出している。

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