今回取り上げる「airRoom」もそのひとつ、家具の月額制サブスクリプションサービスだ。2018年にサービスを立ち上げ、2019年には総額約1億円の資金調達を実施。ユーザー数も順調に伸びているという。
そんな同サービスを立ち上げた大薮氏はなんと現在24歳。なぜその若さでこのサービスを作り上げることができたのか、何が彼を衝き動かしているのか、何を成し遂げたいのか――。
高校生の頃から感じていた社会の課題
――大薮さんが「airRoom」を立ち上げたきっかけについて伺えますか。大薮氏:きっかけというわけではありませんが、「起業したいな」という思いは高校生の頃からありました。
誰しも経験があると思いますが、お金が原因で諦めることってありますよね。私自身、子供の頃から家庭がそれほど裕福ではなかったこともあり、そういった経験が少なくありませんでした。
お金が原因でチャレンジできないこと、体験できないこと、機会損失が起きることがとても我慢できなかったんです。知名度もお金もないけれど信用できる人であれば誰もが格差なく機会を享受できる社会、それを実現できるサービスを作りたいと当時から考えていました。
――高校生のときにそんなことを考えていたんですね。大学へは進学したんですか?
大薮氏:はい、東京の大学に。
上京してから、偶然同じ高校出身の起業家が東京にいらっしゃることを知り、会いにいきました。お話する中で、当たり前ですが社会人経験も何もなかったので、「まずは現場体験をしたほうがいい」といったアドバイスをもらったんです。
――真っ当なアドバイスですね。
大薮氏:早速インターンを募集している企業を探しました。当時から今のような事業を立ち上げたいと考えていたのでコマース領域に絞って企業を探し、最終的にレシピ動画サービス「クラシル」を運営しているdely株式会社に入りました。
当時は今の「クラシル」のサービスはなくて、フードデリバリーの事業をやっていたんです。そこで営業やマーケ、メディア運用、配達業務まで何でも屋として約1年間働きましたね。そのあとヘルスケアベンチャーのFiNCに入ったんです。
――まだ起業には至らなかったんですね。
大薮氏:delyを卒業する際に「本当に起業して成功したいなら、何かでNo.1にならないと失敗する」と代表の方に言われたんです。当時、確かに優秀な起業家たちの中で勝負できるほどの能力はありませんでしから、言われた通りNo.1になってやろうと思いました。
そこで、当時から優秀な人材が多く集まり注目を浴びていたFiNCにエンジニアとして入社することにしたんです。
――エンジニアの経験もお持ちだったんですか?
大薮氏:いえ、完全に未経験ですね。偶然、未経験エンジニアを募集していたので。
当時のFiNCではインターンが50人くらいいたんですが、そのほとんどが東大早慶の学生ばかり。みんな優秀でしたね。でもその中でNo.1にならないといけない。
経験を有し能力の高い方々が集まる一方で、未経験で入った自分に能力がないことは火を見るより明らか。同じ土俵で戦えば間違いなく負けると思いました。なので、質で勝てないなら量で勝負しよう、と思って大学を退学したんです。みんなが学業に専念している間も働こうと思ったんです。
――すごい決断ですね。迷いませんでしたか?
大薮氏:迷うことはなかったですね。学業とインターン先の業務を並行して行う中で、学校でプログラミング・会計・マーケティング等を学び、スキルセットを身に付けてから独立しようと思ったら死ぬまで経営者になれないな、と考えていました。
必要なものは必要なときに追い込まれながら身につければいいと思ったので、迷うことなく決断しました。
実際、その後社内にて一定の評価をいただく機会があったので独立したのですが、やはり選択は間違っていなかったし、実力もついたと感じています。
家具市場が抱える課題
――そこから今の「airRoom」には、どのようにしてたどり着いたんですか?大薮氏:もともと、お金がなくても信用がある人が正しく評価されて夢を諦めなくてもいい社会を作りたいと思っていました。その信用で欲しいモノを手に入れ、欲しい体験ができる、そんなサービスを作りたかったんです。
もう少し具体的にいうと「モノのNetflix」のようなサービスを作りたいな、と思っていました。ただ、ものの貸し借りの文化を作っていきつつ、全方位的に商材を揃えていくのは難しいだろうと思い、カテゴリーを絞って進めていくことにしたんです。
――まずは「家具」から、と。
大薮氏:そうです。今は一方的に貸しているだけのサービスですが、将来的には利用者から出品してもらうモデルを考えています。その上で、「家具」というライフスタイルに足を踏み入れた領域で信用を勝ち取ることができれば、その移行もスムーズになるんじゃないかと。
――なるほど。サブスクリプションサービスはいろんな業界でトレンドになっていますが、「airRoom」を立ち上げる上で意識したことはありますか?
大薮氏:他のサービスを見ていて感じたことは、やはり「メーカーとのつながりが大切」だということです。
一見すると、レンタルが普及することで、「商品を購入する人が減り、メーカーにとってはマイナス」だと思われがちです。実際そんなことはありませんが、モノのサブスクリプションサービスを立ち上げる上でこの点はとても配慮しました。
airRoomではメーカーとのつながりを考慮し、メーカーと協力し合える関係性の構築に努めてきました。それで、家具メーカーの方々と話していると、家具市場の課題も見えてきたんです。
――家具市場の課題?
大薮氏:いま国内の家具市場では年商を数千億以上出しているのが、イケア、ニトリ、良品計画などの限られた会社だけなんです。残りの会社は年商1億円前後で中小企業といわれるメーカー。こういった企業はこの10年間で50%近く廃業しています。
大正・明治から続くような国内メーカーの製品は一生使うことを前提として作られている良い家具ばかりなのに、長く使える良いものを売ろうと思うと、当然値段が張ってしまう。しかし、価格訴求のメーカーが台頭してきた今、高くて良いものは市場に受け入れられませんでした。結果、昔ながらの国内メーカーは在庫を多く抱えているんです。
私たちは、こういった課題も解決したいと思い、在庫になってしまった製品を「airRoom」に出品してもらうモデルでサービスを開始することにしました。他のサービスと比較して低価格で提供できるのもこれが理由です。
――なるほど、もう廃棄するしかなかった製品をairRoomで運用している、ということなんですね。
大薮氏:そうです。最近では、遊休資産として倉庫に眠っている商品だけではなく、新作商品なども多数出品いただけるようになりました。
airRoomがお客様が手軽に気になった商品を利用できる仕組みを提供することで商品に対するフィードバックや改善点といった、これまで小売店でしか得られなかったようなデータを手に入れることができるようになったためです。
私たちはこういった仕組みを通じて、お客様にとって適切な商品をメーカーと協力することで、無駄な廃棄商品を発生させることなくお届けできるようになりました。
これまで家具メーカーは販売チャネルが限られていました。
しかし現状では価格勝負で先ほど挙げた大手メーカに人気が集中する為、売上が縮小傾向にあります。中には倒産する企業もいらっしゃいます。
元来、技術力は極めて高く良いモノを製造できるメーカーが、こういった理由で営業を続けられない現状に得もいえぬ感情を抱きました。「airRoom」はそういったメーカーの課題も解決することができるサービスなんです。
目指すのはライフスタイルのサブスクサービス
――お話を聞いていると、現在の「airRoom」の形はまだ通過点という気がします。大薮氏:そうですね、最終的には「airRoom」をライフスタイルのサブスクリプションサービスにしたいと考えています。つまり、家具だけではなく、ライフスタイルの提案をしていきたいんです。
その先駆けとして、すでに「airRoom」では「家具のコーディネート」を提供しています。部屋の写真を撮影してもらい、アンケートに答えてもらうことで、その部屋にあったパーソナライズされた家具をピックアップするんです。
今後は提案できる領域を拡大していくために、扱う商品のカテゴリーも広げていこうと考えています。家具から家電、衣服、食……と。最終的にはモノのNetflixを目指したいですね。
だから今の「airRoom」はまだまだ通過点。これからも自分が目指す世界に向けて邁進していきます!
大薮雅徳(おおやぶ・まさのり)
株式会社Elaly代表取締役兼CEO。
1995年7月生まれ。法政大学中退。dely株式会社にて、フードデリバリーサービス『Dely』の立ち上げを、株式会社FiNCにて、メインアプリ『FiNC』のiOS/Web開発に従事。2017年末、同社にて年間MVPに選出。2018年5月、株式会社Elalyを創業。
「テクノロジーで世界中の人々のライフスタイルを、より良いものに」というVISIONのもと、インテリアのサブスクリプションサービス「airRoom」を運営。