特殊冷凍テクノロジーでフードロスを解決する――。
ミッションとして掲げているのは「フードロス」の課題解決。しかし、「特殊冷凍」とは何なのか、そしてなぜそれがフードロスを解決できるのか。同社代表の木下氏に話を伺った。
そもそも「特殊冷凍」って何!?
――まずはじめにお聞きしたいんですが、そもそも「特殊冷凍」とは一体何なのでしょうか。木下氏:特殊冷凍と聞くとわかりにくいですよね。「特殊冷凍技術」は、言い換えると「急速冷凍技術」のことです。
食品を冷凍する、というのはつまり食品の水分を凍らせるということ。凍結が起こる温度は決まっていて、だいたい-1℃~-5℃なんですが、従来の冷凍技術ではこの温度帯を通って完全に凍結するまでにかなりの時間がかかってしまいます。時間をかけて冷凍すると、食品の細胞膜を傷つけてしまい、結果として解凍したときに品質が落ちてしまうんです。
しかし急速冷凍技術であれば、この冷凍する温度帯を素速く通過することで、食品の細胞膜をあまり傷つけずに冷凍することができ、解凍しても品質を落とすことなく元の美味しさを復元することができます。これが、私たちが取り扱っている特殊冷凍技術です。
――なるほど、素速く凍らせることで食品の鮮度・品質を損なわないようにする技術なんですね。御社ではこの特殊冷凍技術で「フードロス」を解決することをミッションとして掲げていますが、「冷凍技術」と「フードロス」にはどういう繋がりがあるのでしょう。
木下氏:冷凍というのは食品を保存するための方法です。しかし一方で、冷凍すると美味しくなくなる、という一面もあります。おそらくこれは多くの方が共感してくださるんじゃないでしょうか。
しかし、生の食品を売っている人たちからすると、生で売れなかったものは加工するか冷凍するしかない。でもそうすると品質が落ちて単価も下がってしまう。むしろ手間代がかかるくらいなら捨ててしまおう、となってしまう場合もあるんです。
――品質が落ちない冷凍技術があれば、このフードロスを防げる、と。
木下氏:そういうことです。特殊冷凍技術を使えば、食品の鮮度を止めて生の状態に復元することができます。それによって商圏を広げることだってできるんです。
これを実証する意味でも、弊社ではフローズンフルーツの「HenoHeno」という商品を作っています。これまでコンビニなどで売られていたフローズンフルーツは、表面に氷の結晶が付いていてシャバシャバしていたり、糖度が抜けた味がしたりしますがHenoHenoは違います。
――特殊冷凍技術を使用しているから、ということですね。
木下氏:せっかくなんで食べながら話しましょうか。
冷凍一家に生まれたからこその「気づき」と「行動」
――そもそも、どうして木下さんは特殊冷凍の分野に関わろうと思ったんですか?木下氏:うちは代々続く冷凍一家なんですよ(笑)。私も昔は冷凍設備の施工管理士として働いていたんです。
でも10年くらい経ってある程度仕事を覚えてくると、「これは自分じゃなくてもできることなんじゃないか」と思い始めました。とはいえ、そのときの自分はただの設備屋。冷凍技術のことしか知りませんでした……。
何か変えなくてはいけないと思い、31歳のときに人生初の海外旅行で東南アジアに行ったのが私のターニングポイントです。
東南アジアってフルーツを並べている屋台とかあるじゃないですか? あれを見て何か感じるものがあったんです。店の周りにはあまりお客さんがおらず、店の人も「売れないなら売れないで仕方ない」という雰囲気でした。おそらくこのフルーツは捨てられてしまうんだろう……そんなことを考えていると、急に「フードロス」について興味が出てきたんです。
――すごいですね! 普通なら見過ごしてしまいそうな、ごく普通の東南アジアの風景に思えます。
木下氏:私も日本にいるときには「フードロス」なんて考えたこともなかったです。きっとそのときは焦りもあってアンテナが立っていたんだと思います。
それで「フードロス」について調べてみると、「飢餓」の問題も見えてきました。世の中にはこんな課題があったのかと、そのときに初めて社会課題と向き合ったんです。同時に、自分の強みを生かすことができるのではないか、と考えました。
――その頃すでに特殊冷凍技術についてはご存知だったんですか?
木下氏:聞いたことはある、という程度でしたね。すでに日本には「特殊冷凍技術」を利用した冷凍機が製造されていましたし、実際に活用している会社もありました。しかし、まだまだ普及しておらず、知っているのは一部の人たちだけだったんです。
自分が進むべき道はここだ、と思いましたね。それで会社を立ち上げました。
将来は一人で旅をしながら……
――もともとは、東南アジアで見たフードロスの実状を解決したい、というのがきっかけだったかと思いますが、今はいかがですか?木下氏:変わらないですよ。将来的には個人投資家として東南アジアを旅しながら、機械やノウハウを投資するようなことをしたいと思ってます、本気で(笑)。
カンボジアやベトナム、タイ……そこには日本にはないような美味しいフルーツが安く売られています。しかし検疫の問題でナマ食として海外に流通することは難しいのが現状。でも冷凍することで「加工食」になって流通させやすくなるんです。しかも特殊冷凍をすれば品質も保たれる。つまり、世界各国どこでも売ることができるんです。
そうすれば単価も上がりますし、新たに雇用も生まれ、経済が循環していく。これまでは廃棄されていたものに価値が生まれてきます。
――サーキュラーエコノミーの考え方ですね。
木下氏:そうです、そしてもうひとつ。「特殊冷凍技術」があれば、美味しさを届けることができるようになるんです。
飢餓で苦しむ人たちにとって、ひとかけの乾パンは貴重な栄養になります。でも私がやりたいとはそういうことじゃない。そういう事業は他のフードテックといわれている企業が進めてくれています。
私は、ものを食べて「美味しい」と思って欲しいんです。生きるために食べるのももちろん重要。でも心が豊かになる「美味しいもの」を食べることも大切だと思っているんです。
(文・栄藤徹平)
木下昌之(きのした・まさゆき)
神奈川県横須賀生まれ平塚育ち。70年続く老舗冷凍会社の3代目として生まれる。2013年7月、冷凍業界に革命を起こすため次期社長の座を捨て、特殊急速冷凍事業に特化したデイブレイクを創業。特殊急速冷凍機の導入支援、コンサルティングなど一貫したソリューションを提供している。相談実績は延べ5000社以上。