宿泊予約をキャンセルしたいユーザーは買い手が見つかることで出費を抑えることができる。一方で、ホテルに安く泊まりたいユーザーニーズも満たしている。ホテルは空室が出ずに痛手とならない。まさに三方がハッピーになるサービスだ。
絶妙な着眼点と言えるCansellのビジネスモデルを考案したCansell株式会社代表の山下恭平氏は、どのようなスタートアップ哲学を持ち、0から事業を作ってきたのか。
そこには「面白いものを世に出したい」というクリエイター気質な側面と、ロジカルに事業を推進するビジネスマンとしての素質を兼ね備えたものが垣間見えた。
スタートアップはチャレンジしてなんぼ。今までに無いものを世に出したい。
――まずは山下さんが起業した理由について伺いたいのですが、これまでのキャリアと関係があるのでしょうか?山下氏:もともと起業したいという気持ちはありましたが、これまでのキャリアも関係していると思います。
最初は、SIerでエンジニアとしてキャリアをスタートしました。その後、リクエスト映画の再上映サービス「ドリパス」に第1号社員として創業者のもとで働き、買収されてからはヤフーの社員としてサービス運営に関わっていたんです。
スタートアップに参画してEXITを経験したことで、自ら事業をやる側に回るという思いがより強くなり、2016年1月に起業したという流れです。
――旅行業界で勝負しようと当初から思っていたんですか?
山下氏:もともと旅行業界で勝負したいという想いはなかったですね(笑)。実際、創業当初はグルメハントというインバウンド向けグルメサービスをやろうとしていました。
しかし、伸びている市場ではあるもののスタートアップとして取り組むべき課題ではないと判断し、創業から2ヶ月でピポットを決意したんです。
――宿泊キャンセルに関する原体験を経て、飲食事業をピポットしたわけではないんですね。
山下氏:特に原体験もないですね。キャンセル料も払ったことないので(笑)。ピポットを決意してからはこういうこと、ああいうことができないかと悶々としていました。
スタートアップとして挑戦すべき事業を色々模索している中で、たまたまライフハッカーの記事で見かけた海外送金サービス「TransferWise」の仕組みを知りました。「戻す前に渡す」という概念、すなわち他を経由して渡してあげることでコストを圧縮する。これは面白い仕組みだと。
この仕組みを応用して何かできないかと考えたときに、「権利売買」というアイデアが思いついたんです。さらに、この権利売買を使ってビジネスアイディアを膨らませている中で、インバウンド系の文脈から、仮に旅行業界で事業をやるなら「宿泊」か「移動」しかないな、と。
ロジックの積み上げやアイデアの組み合わせを重ねていき、今のCansellが生まれたわけです。ピボットを決意してから半年でリリースまで至ったのは、アイディアの着想からサービスとして具現化するまでのPDCAを速く回せたからだと思います。
転売ビジネス目的でやれば儲かる。でもやらない
――ピポットを決意し新たな船出としてCansellをリリースしたわけですが、サービスをグロースさせる上で工夫したことや意識したことについて教えてください。山下氏:サービスの特徴としては、キャンセル予約を出品する前の段階で、運営側が予約の真偽や不正出品ではないかどうかを確認しています。
また、元の予約時の価格よりも高く設定できないようにすることにより、転売ビジネス目的での出品を防止しています。Cansellはあくまでもキャンセル料を抱える人を助けるサービスなので、このような形を取っています。
売上だけを考えれば、予約時の価格よりも高く設定して転売を許容したら稼げると思うんです。でも私自身が目指しているのは、売上をたくさん上げることではなく、いかに世の中にない面白いものを世の中に出すか、人に必要とされるサービスを創るか。
とはいえ、事業を継続していかなければなりませんので、どうやって売上を上げるかもしっかり考えながら日々事業に取り組んでいます。
――スタートアップをやる上での信念や、山下さん自身が大切にする仕事哲学はどのようなものでしょうか?
山下氏:根底にはものづくりの楽しさや、世の中にインパクトあるプロダクトを創りたいというクリエイター気質みたいのがあると思っています。
面白いものであれば、やっている自分も面白いですし。また、チームビルディングやモチベーションを維持する意味でも、まだ誰も挑戦したことないことに取り組むこと自体、自分の人生を突っ込めるし、事業に対して情熱をかけれます。
お金儲けではなく、人に必要とされるような、1日でも長く使われるサービスを作ることを第一に考えています。成功の尺度としてはお金をたくさん得られるよりも、サービスが世の中の仕組みとして継続し、経済的にも成り立つ状態がベスト。
やることが面白いかどうか。人に必要とされているサービスかどうか。このような想いを胸に日々ビジネスを行なっています。
ユーザーの宿泊予約のキャンセル料は、世界共通の課題なので今後は多言語化を進めて英語圏にも進出していく予定です。日本発のグローバルサービスとして、AirbnbやUberのように世界中で使ってもらえるようにしていきたいと思います。
インタビューを終えて
必要とされるサービスにすることと、利益を追求すること。両者は相反することではないが、どちらか一方に偏り過ぎても、本質を失いビジネスとして成立しない。両者のバランスをとりながら自らの信念を追求して、ビジネスとして体現する山下氏の仕事哲学。日本発のグローバルサービスとして、世界にどこまで山下氏のビジョンが届くのか。その手腕と今後の活躍に期待したい。
山下恭平(やました・きょうへい)
1985年生まれ。リクエストの多い映画を再上映するサービス「ドリパス」にプロダクトマネージャーとして参画後、2013年ヤフーに売却。ヤフーではドリパスの他、Yahoo!映画やGYAO!などのエンタメサービスを担当。2016年1月Cansell株式会社を設立、代表取締役に就任。