今回シンガポール国立大学研究チームが開発したのは、従来の1,000倍の強度の信号でデータを送り、バッテリー寿命を大幅に向上させる導電性繊維入りの衣服だ。
・1,000倍の強度の信号でデータを送信
現在の電波を介したデータ接続方法は、電波が外向きに放射され、エネルギーの大部分が周辺環境で失われるため、接続の際にバッテリ寿命の大部分が消費されてしまう。そこで、研究チームはセンサー間の信号を身体の近くに閉じ込めようと、メタマテリアルとして知られている導電性繊維入りの衣服を開発した。メタマテリアルは、衣服の上でワイヤレスで滑る「表面波」を作り出す。デバイス間の信号のエネルギーが体の近くで保持されるため、従来の1,000倍の強度の信号でデータを送信でき、デバイスは弱い信号も検出できるようになる。
さらに、デバイス間の信号が強力なため、スマホからデバイス本体にワイヤレスで電力を伝送できるということで、バッテリフリーのウェアラブルデバイスへの大きな一歩となる。
・運動服や健康監視などに使用できる可能性
メタマテリアルは既存のワイヤレスデバイスと連携するため、スマホやBluetoothの変更は不要だ。また現在、電波は機器を装着している人から数メートル外側に信号を送信しているため、情報が漏れる可能性があるが、このメタマテリアルは無線通信信号を体から10cm以内に制限することで、高いプライバシーを提供する。研究チームがコンピューターモデルを用いて設計したメタマテリアル衣服は、メタマテリアルの櫛型のストリップと導体層をもつ。メタマテリアルは安価に購入できることも大きな長所の1つだ。そして、この服は堅固。信号強度の損失を最小限に抑えながら折り曲げられ、導電性ストリップは無線機能を妨げることなく切断できる。また、普通の服と同様に洗濯や乾燥、アイロンがけもできる。
現在、研究チームは商品化を目指してパートナーとさらなる開発を進めている。特別な運動服や病院患者の健康監視などでの使用が見込まれるスマート衣服。今後が大いに期待される。
National University of Singapore